10話 弱虫キージュ
ルシェを背負ったキヤメは、キージュの後ろを歩く。ルシェはようやくキヤメが眼帯をつけていないことに気づき、キヤメの眼帯の紐を結んでいた。
「なぁ、キージュ。さっきのことなんだけど、どこから矢を射ってたんだ?昨晩のこともだし。弓矢の扱い上手いんだな。」
「え?あぁ、うん。割と遠いところから見てたわよ。鳥の民は目がいいからね。弓は…ちっちゃい頃に一生懸命練習したの。鳥の民はほとんど弓を使う人がいないから、苦労したわ。」
「目がいいのに弓を使う人がいないのですか?どうして?」
「鳥の民には翼があるから、弓のような、隠れて攻撃するような武器は不向きなの。それに、弓を使うよりも高いところから飛び降りて襲撃する方が早いからね。弓は弱者の象徴とも言われてるわ。」
「じゃあなんでキージュは弓を使うのですか?」
「それはね、あたしが『弱虫キージュ』だからよ。」
キヤメとルシェは顔を見合わせる。地雷を踏んでしまったのかとルシェはキヤメの上でわたわたした。キージュの顔は見えない。心なしか、キージュの歩く速度が早くなったとキヤメは感じた。
3人は黙って歩き続ける。
集落につくと、灰色の翼を持った青年たちがキージュを出迎えた。
「よぉキージュ。珍しく大物だな。また助っ人に手伝って貰ったのか〜?」
キージュは黙りこみ動かない。
「いやー、あなた達も苦労しますねぇ。何せこの役たたずと一緒に狩りなんて。」
青年の1人がキヤメの肩に手をまわす。キヤメはルシェを片手で支え、もう片方の手で青年を払い除けた。
「誰が役たたずですか!確かに、キージュのせいで危ない目には遭いましたけど…私を襲ったイノシシをキージュは矢で射って助けてくれたんですよ!撤回してください!!」
ルシェは握り拳でキヤメの肩を叩きながら怒る。
キヤメは肩に軽い振動を感じながらも青年たちを睨みつけた。青年たちは2人の反応に若干いらついた様子を見せながらも煽り続ける。
「ほら、矢で射ったって言ったぞ。どうせ今回もまたびびって遠い二逃げてから攻撃したんだろ?なぁキージュ。」
「あんたたち、うるさいわよ。私たちは忙しいから、あっち行って。」
キージュは声を震わせながらも言い返す。青年たちは腹を抱えて笑い出した。
「お客さんの前だからって意地はるなって!ほら!キージュがこう言ってるしあっち行ってやろうぜ!!またな!弱虫キージュ!!」
青年たちは捨て台詞を吐き、村の奥へと姿を消した。キージュは深くため息をついて、ぽつりと言った。
「あの人達はね、昔あたしと一緒に狩りに行った人達なの。あたしは強制的に連れて行かれたんだけどね。弓を使う鳥の民は珍しいからって。そこで、あたしは遠距離から攻撃してたんだけどあの人達が邪魔で獲物に当たらなくて、間違ってあの灰色の翼の、あいつの足に当ててしまったの。それから、あたしは恨まれて嫌がらせされてる。」
「近接戦闘を避けるのには、何か理由があるのか…?」
キヤメは恐る恐る尋ねる。キージュはぱっと顔を上げて
「とりあえず、このイノシシを売りに行こっか!ジュースでも奢ってあげるわ。その後でおしゃべりしましょう。」
第二章終わるまで毎日投稿するよ。キージュはかわいい女の子だよ。