9話 狩猟
キージュ達は鳥の民たちの集会に参加していた。
1人の男が台の上で話す。
「えー、ではいつも通り打ち合わせします。まずはトリニワさん達とフロクゥさん達は、あのルシェ様捜索隊に加わってラウの森に向かってください。残りの人達はいつも通り狩猟や配達を行ってください。ヒニワ様の情報収集もお願いします。…ん?キージュ、その人たちは誰だ?」
男がキージュに話しかける。鳥の民はいっせいにキージュの方を向き、キージュは慌ててキヤメ達を背中に隠した。
「あ、えーと、父さん、いや、村長。この人達は昨日保護した人達です。ドッバの森の中で道に迷ってしまったそうで、昨日の夜偵察中に見つけてそれで〜…。」
キージュはしどろもどろに誤魔化す。キヤメとルシェは冷や汗をかいた。
「あっ!この人達は腕が立つ旅人らしいので!いつもほら!うちに泊めた旅人とかには狩猟に参加してもらってるじゃないですか!だから!今日手伝ってもらおうと思って!!」
すると、1部の人達がざわめき始めた。
「またあの『弱虫キージュ』に助っ人だよ。」
どこからかこの発言が聞こえた。キージュは固まり、口をきゅっと結んで黙ってしまった。
村長は咳払いをして続ける。
「ならいい。キージュは今日その人たちと動きなさい。じゃあ解散。皆の者、良い狩りを。」
村長は踵を返した途端、人々はいっせいに散った。ルシェ捜索隊の人々は走り出したり飛んだりといっせいにラウの森へ向かっていった。
キージュは黙ったまま動かない。灰色の翼を生やした青年達がキージュの横を通り過ぎながら
「弱虫キージュ、せいぜい頑張れよ〜。」
とからかいながら去っていった。
「おい、キージュ。大丈夫か?」
キヤメは肩を叩く。キージュはくるりと振り向いて
「大丈夫だいじょぶ〜!いつもの事だよ。」
悲しげに笑った。
「ささ、行こ!あんたたちのこと教えてよ。じゃないとあたしもルシェ様捜索隊に加わっちゃうからね!」
「ふーん。あのゼーテ家が怪しい宗教に染まり、それから逃げてきたって訳か…。それであんた達は創造神様を探す旅に出たばかりなのね。」
森の奥に向かいながら3人は話す。キヤメは眼帯の紐を解いた。
「そうそう。で、眼帯で隠してるけど、俺の目の中に模様があるだろ?これが創造神のなんかの模様らしくてさぁ。」
「ちょっと!簡単に目を見せないでください!見せられた側も危ないんですよ!」
「創造神のなんかって、ふわふわしすぎなんじゃないの?」
「それは…。この模様について書かれている本は恐らく弟妹達に破壊されてしまって…。」
「うわぁ…。ご立派な貴族だと思ってたけど、ゼーテ家やっばぁ…。」
ガサガサと茂みを進むと、イノシシが数匹見えた。
「おっ、はっけ〜ん!さぁ!やっちゃってくださいよ腕の立つ旅人さんたち!」
こう言い残してキージュは来た道を逆走した。
それと当時にイノシシが2人に向かって突進する。
「えええええ!?」
キヤメとルシェは叫ぶ。
「キ、キヤメ!剣!あの剣だして!」
「出し方わかんないって!よくわかんないけど剣出てこい!!」
キヤメが左腕をイノシシに向け突き出す。すると昨日の剣がキヤメの手の中に現れた。
「うおおおおっ!?出てきたんだけど!出てきたんだけど!?」
混乱するキヤメの後ろにルシェは隠れ、
「早く討伐してください〜!!」
とキヤメの背中を押した。
イノシシがキヤメの腹部目掛けて走る。
次の瞬間、キヤメは何者かに憑依されたように、
冷たく鋭くイノシシを切り裂いた。
ルシェが目視できただけでも、3回はイノシシの胴体に剣が到達していた。
「…え?キヤメ…?」
ルシェは呆然と立ち尽くす。キヤメは動かぬイノシシを俯き眺めていた。ルシェの立ち位置からキヤメの顔は見えない。
シュー、シューとルシェの横から聞こえてきた。もう1匹のイノシシが、ルシェのすぐ側まで近づいていたのだった。
「ルシェ!!!」
キヤメは振り向きルシェの元へ走る。ルシェは硬直して動けていなかった。
イノシシがルシェの身体に突撃する直前、
トッ、とイノシシの身体に矢が命中した。
矢が打ち込まれたイノシシは力無くその場に倒れる。
「ルシェ!大丈夫か?」
キヤメはルシェの元に駆け寄った。へなへなと座り込んだルシェは
「こ、怖かったです…。ありがとうキヤメ…。」
はらはらと泣きながらキヤメにお礼を言った。
ガサガサと先程キヤメ達を置いて走り去ったはずのキージュが蒼白な顔をして姿を現した。
「あちゃ〜…。ごめんなさい、泣かすつもりはなかったの。ただ、あなたたちの腕を見たかっただけで…。ルシェ〜!!ごめんねぇ〜!!泣かないで〜!!!」
「あんまりですよキージュ!おばか〜!!!」
わぁわぁ泣きながらキージュをぽかぽか殴る。
ごめんごめんとキージュはルシェに手を差し伸べて立たせた。キージュはルシェに寄り添うキヤメに話しかける。
「それにしてもキヤメ、あんたなんなの?それ魔法だよね?貴族でもないのになんで使えるの?」
キージュはキヤメの持つ剣を指さして言う。
キヤメは剣をじっと見つめて
「分からない…。昨日始めてこれを使って、出し方が分からなかったままだったんだ。魔法なのかどうかも分からないけど…。」
呟くように言った。キヤメが剣から手を離すとフッと消えてしまった。
「あんた本当によくわかんない人だね。半年前に意識が目覚めたって言ってたけど、その前にしてたこととか心当たりとかないの?キヤメっていうの名前は自分でつけたとか?」
キージュの質問にルシェは不安そうな眼差しをキヤメに向けた。
「俺は、『キヤメ、起きて!』っていう誰かの声に起こされたんだ。だから俺は俺の名前を知ってる。半年前まで何をしていたから本当に覚えてないんだ。」
キヤメはお手上げのジェスチャーをする。
「まぁ悩んでても仕方がないわよね。そこのイノシシを持ってひとまず村に帰りましょ。」
キージュはキヤメの剣によってバラバラになったイノシシを袋に詰め始めた。