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人探し

「・・・・・・まぁ、こんなとこで立ち話もなんだ。コーヒー飲むか?」

「リュカさんの入れるコーヒー、美味しいんよねぇ。ありがたく頂きますわ」


 門を開けると、ニコニコしているエミリーを俺は仏頂面で招き入れる。

 俺の不機嫌な様子など全く気に留めていないエミリーは、ウッドデッキの椅子に座ってもピーチクパーチクしゃべり続け、俺がコーヒーを入れてテーブルに置くまでそれは続いた。

 

 コーヒーカップを手に取って口にすることで、やっと黙ったエミリーに、本当は聞きたくなかったが尋ねてみる。


「で? 用件は何だ。まさか本気でどこやらの牛の話とか、魔道具屋のいかず後家の話をしに来たわけではないんだろう?」

「まぁ! いかず後家やなんて! ひどいわぁ。魔道具屋さんに言いつけたろかしらん」


 澄ましてコーヒーを啜るエミリーをジロッと睨むと、俺はため息をついた。


「これ以上、漫才を続けたいならよそでやってくれ。俺は朝の癒しの時間を邪魔されて機嫌が悪いんだ。いい加減にしないと叩き出すぞ」

「怖い怖い。"黒狼"に脅されたら、おしっこチビってしまいそうやわ。まったく、この人は世間話というものを知らんのかしら」

「・・・・・・」


 エミリーは再びコーヒーを啜り、カップをテーブルに置くと、黙ったまま睨みつける俺を見ながら言った。


「じつはお願いがあってきたのよ。人を探して欲しいの」

「人探しか・・・・・・。それなら俺じゃなくても、もっと適任がいるだろう?」

 

 エミリーはコーヒーカップにティースプーンを差して、グルグルとかき混ぜ始める。


「はじまりは三丁目のお医者さん、ドミニクさんちのジェニーちゃんだった。勉強熱心ないい娘でね。いつかこの街を出て、女医さんになるのが夢やゆうて笑てたわ。十日前に個人教授の授業を受けた後、皆と別れて家路についたとこまでは分かってるんやけど、家までほんの五分ほどの帰り道の間にいなくなってしもうたんよ」

「・・・・・・」

「次は八百屋のへリングさんちのルーシーちゃん。小さいのによう、お手伝いする娘でね。お父ちゃんの口調を真似して舌足らずやのにお客さんに野菜を売り込むもんやから、可愛らしくて人気者やったのよ。七日前にいつものようにお手伝いしてて、閉店間際にちょっと裏の倉庫に野菜を取りに行かせたら戻ってこないもんやから、しびれ切らしてお父ちゃんが見に行くと居なくなってたらしいわ」

「・・・・・・」

「お父ちゃんたちの嘆きようったら、見てられんほどやった。今も店閉めて、夫婦で帝都中を探し回ってる。そして、次は・・・・・・」

「もういい、分かった。結局、何人いなくなってるんだ?」


 俺はエミリーの話をさえぎると、聞いてしまった。


 エミリーはニヤリと笑う。フィッシュ・オン! 魚が針に食いついたぜ!という笑顔だろう。

 それでも俺は気にならなかった。

 消えた少女たちが気になって仕方がなかったからだ。


「全部で五人。一番最近が昨日、酒場カルニーゴの看板娘アリスちゃんがいなくなってる。同じようにほんの少しの間、眼を離したすきにいなくなってしもうたらしい」

「五人の間になにか共通点はあるのか?」

「特には・・・・・・年齢も5歳から12歳とバラバラだし、交流があったわけではないみたいなの。強いて言うなら、皆、可愛らしい女の子ということくらいかしらん」

「・・・・・・どこぞのロリコン貴族の仕業とか?」

「今のところ、私の情報網に引っ掛かるような動きはないわね。他所の貴族の差し金なら、何らかの動きがあるはずなんだけど、それはない。まだ彼女たちはペルフィードの街の中にいるはずなの。一日も早く助け出したいのよ」

「で? お前はいくら貰うんだ?」

「は? なに言ってるの?」

「何言ってるのか、よーくわかってるはずだ、万事屋エミリー。またの名を情報屋エミリーともあろうものがタダで動くはずが無いだろ。かわいそう? ハハッ、笑わせるな、お前がそんなタマかよ。

 たんまり親たちから報奨金を貰う段取りなんだろ? そうだな、分け前7割でなら手伝ってやってもいいぞ」


 俺は金には困ってないので分け前なんて貰わなくてもいいくらいだが、こいつの口車に乗ってタダ働きさせられるのは、ちと癪に障る。

 だから業突く張りに分け前を要求することで、できればこの先、俺に厄介事を依頼するのを躊躇うようにもっていきたい。


「ハァァッ!? ふざけんなし! テメェには人の心ってもんがねぇのか! 3割だよ!」

「ハハハッ、言葉が乱れて地が出てるぜ。似非(えせ)関西弁みたいなのは聞いてて気持ち悪いから、そっちの方がお似合いだぜ。6割5分だ」

「なめんなよっ! エミリー姉さんを舐めてると痛い目にあうぞ! ぬうう、4割だ」

「おおっ、怖い怖い。どんな痛い目にあわせてくれるのか楽しみだ。6割。これ以上は負けねぇ。この俺が動くんだ。安売りはしねえぞ」

「ウウッ、仕方ない。私が4割で我慢するよ。そのかわり、ちゃんと探し出して、皆を連れ帰ってちょうだい」

「任せとけ。そのかわり、お前もしっかり情報をよこせよ。さしあたってはいなくなった女の子たちの詳細な情報が欲しい。本人の写真、家族や友人関係、行動範囲なんかを詳しくまとめたヤツをくれ」

「フフフ、そう言うと思ってたわ」


 エミリーは心得顔で嗤うと、下げていたカバンから分厚いファイルを取り出した。

 畜生! エミリーの奴、俺が引き受ける前提で用意してやがった。

 なんか、悔しい。


「これに全てまとめてあるわ。何か追加で分かった事があれば、すぐに連絡したげる」

「よし、じゃあ早速資料あたってから、午後からでも動くことにするよ。俺の方も何かわかれば、万事屋の方に顔を出すようにするから」


 笑顔でデッキチェアから立ち上がり、テーブル越しに手を伸ばしてきたエミリーと握手する。

「契約成立だな」

「ええ。よろしくお願いするわ」


お読みいただきありがとうございました。


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