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ルーストのアジト

 終戦後、魔王領でも似たような問題はあった。

 戦災孤児の急増により孤児院は収容限界を超えて溢れだして有名無実化し、戦災孤児たちはあちこちの市場で盗みを働くことでしか生きていくすべがなかった。

 生きるためとはいえ、子供たちだけで徒党を組み、次第とギャング化していた集団もいたほどだ。

 

 強盗・殺人などの悪質な犯罪を犯したヤツは、子供とは言えキチンと捕らえて、法の裁きを受けさせなければならない。

 そうではない孤児の中から、才能ありそうな奴を拾い上げ、忍者部隊で鍛えることで助けることが出来た子供も数多くいた。

 幸い、魔王軍の再編やインフラの再整備などで人手が足りなかった時期だったので、ほとんどの孤児たちの雇用先が決まっていったのにはホッとしたが。


「話を戻すわね。店の女の子が立て続けにいなくなったので、組員総出で調べさせていたら、ウチの子がある場所に監禁されているのを見かけたという情報が入ったの」

「ある場所とはどこだ?」

「ルーストのアジトよ」


 ルースト! あの半グレどもか!

 そういえば婆さんの孫娘が拉致されて、俺が救い出したのもルーストのアジトからだった。俺はバカだ。何故結びつかなかったのか。


「ルーストとバンパイアどもが手を組んでいるということか?」

「あるいはバンパイヤがルーストを支配しているのか・・・・・・。最近のあいつらは何だかおかしいのよ。あたしらと抗争していた頃とは全く変わってしまったわ」

「どうおかしいと言うんだ?」

「もともと日常的に薬をやってるような奴らだから、まともではなかったんだけどね。ホントかどうかわからないけど、気味が悪い話があるの」


 バーバラがちょっと言いよどみ、困惑したような表情で付け加える。


「ウチの組員が言うにはね、夜中に見かけたルーストの奴らの眼が、何人か赤く光ってたっていうのよ」

「へぇー、そいつは興味深いな」

「でしょ。今もウチの組員たちが交代でルーストを見張っているわ。動きがあれは知らせが来るはずよ」

「わかった。他になにか隠している情報はあるかい?」

「まあ、リュカ! 何か疑ってるの? あたしは全部話したつもりだけど?」


 バーバラは意外そうに驚いて見せ、それから笑顔を俺に向けてきた。

 この女は本当に女狐だ。


「じゃあ、情報交換もここまでだな。俺は帰るとするよ。コーヒーごちそうさん。この豆、美味かったけど、どこに売っているんだ?」

「コーヒー豆くらい、幾らでもあげるわよ。それでリュカ、あんたはこれからどうするの?

 ルーストのところへ乗り込むなら、一緒に腕利きを何人かつけてあげてもいいわよ」

「いや、タダほど怖いものは無いからな。コーヒー豆も助っ人も断る。大体、ルーストが本当にバンパイアの手先なのかも確かめてないのに、乗り込むバカがどこにいるんだ?

 悪いが、俺はお前らのいうことは1ミリも信用していない。

 出まかせ言って、ルーストを潰す片棒を担がせようとしてないと、誰が断言できる?

 まあ、いろいろ参考にはさせてもらうよ。ありがとさん」


 俺はフカフカのソファから立ち上がるとドアの方に向かい、手をひらひらと振って別れの挨拶をした。


 ドアの前にはゴツイ体格の組員がふたり、門番よろしく立っていたが、俺が睨みつけると慌ててドアを開ける。

 

「ああ、そうそう。マルボーナファミリー全員で俺に仕返ししてくるって話、いつでも喜んで相手になるよ。今までも何十万人っていう国を相手に喧嘩してきたんだ。こんな田舎やくざの一つや二つ、増えたって気にしないから」


 俺が思い出したように、振り返ってバーバラの目を真っ直ぐに見つめながら言うと、バーバラは一瞬身震いしたが、それでも笑顔を作って俺にむける。


「リュカ」

「ん?」

()()会いましょう」



リュカが去ったあとの執務室は、リュカが残した殺気がまだ漂っているようで、しばらく誰も口を開かなかった。


「姐さん、いいんですか? あんなに好き放題言わせて、姐さんのメンツにかかわりますぜ」

「フフフ、いいのよ、言わせておけば。今はまだ敵対する時じゃないわ。それにあいつが本気を出せば、ウチのファミリーが打撃を受けるのは間違いない」


バーバラはニヤリと嗤いながら、続ける。


「それに会ってみて分かったわ。アイツは”子供”という言葉(ワード)に敏感だった。それが弱点につながるのかもしれないのは収穫だったわ。

 ああいうバケモノはね、上手にエサを与えて自分が獲物にならないよう、気を逸らしておくのが一番なのよ。

 かといって油断すれば一瞬で嚙み殺されるから、調子にのらないことが肝心ね。

 なんとかこの機会に着かず離れず、いい関係になりたいものだわ」


 バーバラはリュカが出ていった扉を冷めた目で見つめながら、呟いた。

「そう、今はまだ、ね」


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