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トルベト

「お嬢! もう我慢ならねぇ! 俺にコイツを殺らせてくれ!」

「トルベト! お前の仕業なのか?!」

「黒狼だか何だか知らねえが、この世界、舐められたら終わりですぜ! いざという時の準備くれえ当たり前の事でさぁ!」


 トルベトと呼ばれた男は、俺を睨みつけると怒鳴ってきた。


「俺の剣を受けて無事だった奴は、今まで一人もいねえんだ! 正々堂々、勝負しろ!」

「はぁ~、卑怯な真似して若頭の顔を潰した奴が、言うに事欠いて正々堂々ってか。

 バカの相手は疲れるねぇ」

「てめえも真っ二つにしてやる!」

「・・・・・・お前、戦争には行ったのか?」

「なにっ! 俺のような組織の幹部が、そんなもん行くわけねぇだろ!」

「戦場ではな、お前程度のヤツなんて、珍しくも無かったよ。ザコ過ぎて一番最初に死ぬ奴の典型だと言ってもいい。今までのお前の剣の相手は軍人ではなく、素人ばかりだったんだろ? 魔王軍の一兵卒だって、お前の剣ごときにやられやしねえよ」

「うるさい五月蠅いうるさい! だまれぇぇぇ!!」


 トルベトは両手剣を振りかぶると、大上段から俺に斬りかかってきた。


 遅い。


 俺は振り下ろしてきた剣を半身躱して避け、トルベトの右手に手を添えると、呼吸投げの要領で投げ飛ばした。

 トルベトは空中で、ほとんど1回転する勢いで飛び、尻から床に着地して悲鳴を上げる。


「ウギャッ!」

「オイオイ、まともに斬りかかってくることすら出来ないのか? それでよくデカい口が叩けたな」

「くそっ、今度こそ!」


 トルベトは俺に向き直ると立ち上がり、今度は右から袈裟懸けに剣を振り下ろしてきた。

 俺は背中に差してあった十手を抜くと、トルベトの刀身の横を十手の棒身で叩いていなすと、すかさず十手を刀身に沿わせて鉤で受けた。

 受けた瞬間にグイっと手首を返し、棒身と鉤でトルベトの剣の中半辺りでロックする。


 こうなるともう閂を掛けたように、自分の剣を押すにも引くにも俺が押さえているので、自由に動かすことが出来なくなるのだ。

 動けなくなったトルベトの顔が驚きと焦りで歪んだのを見て、俺はくるっと円を描くような足さばきで動きながら、剣を十手ごと下に向けて引き倒す。

 するとトルベトは剣に引っぱられてバランスが崩れ、剣を落として床に膝をついて四つん這いになってしまった。


 俺は少し後ろに下がって、トルベトを見下ろす。


 トルベトは、俺が追撃してくるつもりがなく、自分が立ち上がるのを待っているのに気づく。屈辱に顔を歪めながら、起き上がりながら剣を拾い、横なぎに振るってきた。


 俺は十手を手の内でくるっと回転させ、逆手に持ち替え棒身が肘の先まで来るようにした。そして横なぎに来た刀身をそのまま棒身で受けると、スッとまた鉤で刀身を銜える。


 それから一歩踏み込みながら、鉤を刀身の根元までずらすとグイっと十手を捻って、自分の刀身の刃がトルベトの喉元に当たるようにした。


 トルベトは立ち上がろうと力を込めても、俺が剣ごと押さえつけているので中腰のまま立ち上がれないでいる。

 そんなバカな、といった顔で赤い顔を更に赤くしながら渾身の力で俺を押し返そうとするが、逆に俺に徐々に押し込まれてしまう。

 力比べで俺に負けているという屈辱に、トルベトの赤い顔がだんだん青ざめてきた。

 自分の剣の刀身が、十手に押されて自分の喉元にあるのを見て、焦ったトルベトはなんとか押し返そうと全力で足掻くが果たせず、絶望でますます青ざめる。

 

「どうする? もう勝負あったと思うんだが、まだやるかい?」

「くそぅぅぅぅぅっ」


 トルベトが喚くと、喉に刀身が当たり、薄皮が切れて血が一筋流れはじめた。


「おいっ、テメエら! 黙って見てないで助けろ!」

「何だよ、期待外れな奴だな。結局、仲間に助けを求めるのか。

 まあいいや。もうお前に用はない。で、次は誰が相手してくれるんだ? なんなら全員でかかってきてもいいぞ?」

 

 俺が嗤いながら周りを見回すと、誰も金縛りにかかったように動かなかった。


「リュカオーン、それくらいにしといてもらえるか」


 赤毛の女が立ち上がると、階段を降りて俺に歩み寄ってきた。

 そして俺の前まで来ると、真正面から俺の眼を見て言い放つ。


「トルベトがしでかしたことは詫びよう。あたしの本意ではなかった。すまないと思ってる。

 こっちからチョッカイ出したのも悪かった。少し試させてもらったんだ。本当に黒狼なのか、誰も確信が持てなかったんでね。

 だが、これ以上やると言うなら話は別だ。お前にとってはクズかもしれないが、あたしには大切な子分どもなんだ。殺すって言うならこっちにも考えがあるよ。

 あたしたちは仲間がやられて、黙っているほど腰抜けじゃ無い。マルボーナファミリーが最後の一人になるまであんたを追いつめて必ず殺してやる。

 組織に追われる怖さは魔王軍にいたアンタならよく分かっているだろう?」


 俺を睨みつけてくる赤毛女の瞳の中には、強い意志が燃えていた。

 イイね! 嫌いじゃない。女を見直した俺は、少しは話せそうだと思い直す。


「・・・・・・ゆっくり話そうと言っていたな。話題は何だ?」

「バンパイアどもの狙いとアジトの情報では?」

「そいつはいいね」


 俺は十手をトルベトの剣から抜き、力をかけるのをやめた。

 トルベトはガシャンと剣を床に落とし、虚脱したように座り込む。


 俺は赤毛の女に向き直り、笑顔で尋ねた。


「もちろん、客にはお茶の一つも出るんだよな? では、ゆっくり座って、話を聞くとしようか」


【作者からのお願い】


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