ドワーフの飯屋
魔道具屋を出た俺は昼食を食べようと決め、行きつけの飯屋に行くことにした。
この飯屋はドワーフ族の親子がやっている、こじんまりした店なのだが、なにしろどの料理も美味いのが売り物だ。
ドワーフと言えば鍛冶屋だろうと思うけど、鍛冶より飯と酒が好きな親父が作っているので、その料理の質と味には間違いがない。
単にドワーフって種族的に凝り性なのかもしれないな。
この店で、一番人気なのが、コカトリスの唐揚げだ。
我が家からも見える山の麓にコカトリスの群生地があって、冒険者が狩ってくるのを調理しているのだ。
最近では、この店でのあまりの人気に他の店までが真似をし始めたので、コカトリスの需要が高まり、目端の効く者がコカトリスの養殖を始めたという噂も聞こえるほどだ。
この唐揚げという調理法も、昔、異世界転移してきた勇者が広めたという伝説がある。
今では普通に食べられている麺類や、ひき肉料理のハンバーグなども勇者が発祥らしい。
魔王軍にとっては煩わしいだけだった勇者も、たまには良いことをしてくれるみたいだな。
さて、今日はなにか軽く食べたい気分なので、肉うどんにしようかな。
いや、やっぱりこの店に来たらラーメンだろう!
俺はラーメンと言えば豚骨派だ。特にこってりとした奴がいい。
さっぱりした豚骨ラーメンを個人的には認めない。
この世界にも豚や牛などの家畜は普通に存在する。鶏はどこかの国にはいるのだろうが、俺は見たことがない。魔王領やこの辺では、コカトリスで間に合っているしな。
魚だって食べるが、山間は川魚が主だ。海の魚は内陸地への輸送手段が人馬によるものが大半なので、この辺まで流通しているのは干し魚に加工したものが多い。
だから、豚骨の骨から煮たスープは本物だし、醬油系は干し魚から出汁を取ったあっさりしたものが多いのだ。
この飯屋では豚骨と醤油ラーメンが食べられる。
醤油ラーメンも嫌いではないが、豚骨に次いで2番目かな。あと、野菜がたくさん載っているタンメンも捨てがたい。
しばらくメニューを見て悩んでいた俺は、結局誘惑に負けて、親父に豚骨ラーメンと唐揚げを注文する。
全然、軽くなくなったが、食べたくなったものは仕方がない。
待つ程なくして出てきたラーメンに、俺はいつものようにテーブルに置いてあるレッドジンジャーの酢漬けと、酸っぱく漬けた菜を刻み唐辛子と油で炒めた漬物を瓶から取ってラーメンに投入した。
それからまず、スープを飲む。
口の中で濃厚な豚骨スープの香りが爆発し、鼻腔の奥までスープの香りで満たされた。
舌が強烈な旨味を感じて狂喜し、もっと飲めと催促してくる。
喉を通った熱いスープが食道を通って胃に流れていくのが感じられ、腹の底から唸り声が込み上げてくる。
「うめぇ・・・・・・」
たまらず麺を啜ると、細いくせに腰がある麵がシコシこした歯ごたえと滑らかな喉越しを与えてくれ、思わず顔が綻んでしまう。
この麺にレッドジンジャーの酢漬けや菜の唐辛子炒めの風味や触感が絶妙に絡み合い、素晴らしいハーモニーを奏でてくれるのだ。
そしてこの店のチャーシューは絶品だ。ホロホロと崩れてしまう寸前まで煮込まれたそれは、箸で口の中に入れた瞬間にほどけてしまうほどトロトロで柔らかい。
夢中になってラーメンを啜っていると、唐揚げが到着した。
相変わらず大振りで、唐揚げ1個が大人の握り拳ほどもある。それが刻んだキャベツと一皿に3つも入っているのだ。
慌てて食べると唐揚げの熱い肉汁で、口の中を火傷してしまうほどジューシーなので、よく吹き冷ましてから齧りつく。
表面はカリッとしているのに、中はたまらなく柔らかく、噛むほどに肉汁が染み出てくるから、ついついもう一口、と続けて齧りつきたくなってしまう。
これとラーメンを交互に食べるのは、幸せな瞬間と言うほかない。
唐揚げの付け合わせに盛られたキャベツには、これもテーブルに置かれたマヨネーズをかけて、唐揚げと一緒に食べるのが俺は好きだ。
このマヨネーズを広めてくれただけでも、俺は昔の勇者には感謝しか感じないぞ。
もうすぐ食べ終わるので、このタイミングでラーメンの替え玉を頼もうかどうしようかと迷っていたら、店のドアが開き、エミリーがひょっこり顔を覗かせた。
「ああっ、やっぱりここに居た! リュカさん探したで!」
「どうした、エミリー。お前もラーメン食いに来たのか?」
エミリーは素早くテーブルに近づくと、俺の隣に座り、声を顰めて耳元で囁く。
「マルボーナファミリーの若頭はんが会いたいそうや。バンパイアの件でなんや、相談したいことがあるんやて。マルボーナファミリーがやってる店まで来てほしいって言うてるけど、どないする?」
「なんで俺がわざわざギャング共の根城に行かなきゃならんのだ。相談したいならお前が来いって言え」
「え? リュカさんちにギャング達が大勢押しかけてもええの? 暴れたら大事なお庭が荒らされるかもしれへんのに?」
「・・・・・・どこに行けばいい?」
「そう言うと思うた! 案内するわ」
エミリーはニパッと笑うと、俺の手を取った。
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