クエスト『雪山のコスモスを探せ』を達成したら魔王と呼ばれそうな気がしてきたが、とりあえず和菓子はどれも美味いってことをわからせてやりたい。
なろうラジオ大賞応募作品・千文字短編。
お題キーワード(後書きをご覧ください)を全て盛り込んでいます。
「雪山のコスモスを探せ? 無理無理。帽子かぶったたまご塀の上に戻すより無理」
「そうおっしゃらず、お願いです、勇者様!」
必死で俺にクエストを引き受けさせようとしてくるギルドマスター。
彼によれば、ことの起こりは5年前。
この世界の神々が文化祭の開催を思いついたときから始まる。
某教の神たちが、祭で 『和菓子』 という自国の菓子を振る舞うことを考えた。
そこまでは良い ―― が、問題はそのあと。
彼らは菓子を 『温泉饅頭』 にするか、金魚鉢をかたどった 『錦玉』 にするかで争いを始めたのだという。
「両方にしろや」
「まじそれですわ」
おかげで文化祭がいつまでも開けず、ほかの神々の苛々がつのっている。
そのせいで各地で異常気象が起きてしまい、世界は滅亡寸前。
困った王様が世界一と名高い占い師に頼ったところ ―― 『雪山のコスモスを探せ』 という結果がでた。
謎ではあるが仕方ない。
こうしてクエストは、各地のギルドに委託されたのだそうだ。
「クリアで某国の最高級温泉旅館・湯ったり旅」
「いらん」
「芸者のおねえさんたちとオトナのお座敷遊び体験つき」
「のった」
「感謝します! さすがは若き英雄!」
こうして俺は、雪山でコスモスを探すことになった。が。
普通に遭難しかけた。
準備不足とか言うな。
7日分じゃ足りなかっただけだ。
凍てつく空に死神の鎌のような三日月がかかる、ある晩 ――
俺は、山小屋を見つけた。
地図にはないが…… 助かった!
小屋に入ると、奥に暖炉があった。
ほっとする。
まずは火を起こそう。
―― ん? つかない?
よく見れば、暖炉のわきに文字盤がある……
『パスワードを入力して起動』
えっ。なんで無駄に最新式なの。
俺と某神と、ギルド受付嬢の誕生日 ―― 思いつくままに入力してみたが、全てエラー。
だよな…… こうなりゃ、ヤケだ。
『ゆきやまのコスモス』
とたんに、ガガガ、と妙な音が暖炉から響いた。
続いて、無機質な声。
“異世界転移システム、稼働開始 ―― 『魔の宇宙』 になにを転送しますか?”
なんと……
これ、なんでもいいのかな?
ためしに、某教の神の名を入れてみる。
ヒュンッ
すごい勢いでなにかが吸い込まれていった。
暖炉がしゃべる。
“神∞¤§%、転送完了”
“次を入力してください”
意外なところで、クエスト達成できそうだ ――
俺は一晩かけて、神々の名を全部、入力していった。
そうだ。アレもついでに送っとこう。
「おんせんまんじゅう。次、きんぎょく、と……」
どっちもきっと、美味いよな。
キーワード 『コスモス/雪山/温泉/パスワード/たまご/和菓子/5年/金魚
帽子/クエスト/三日月/文化祭/暖炉』