95_武道の突き
琥太郎が、一応人が一番少なそうな方向に移動して立った。
「美澪、いいよ。3つとも、お腹のあたりを狙ってもらっていい?」
「わかった。」
ドッ
まず、普通の妖気弾。
「ふんんっ」
ドォッ
続いて、手の平で妖気を圧縮した妖気弾。
「ふんんんっ、ん!」
ドンッ!
最後に、丹田で妖気を練ってから撃つ妖気弾。
「おぉ、やっぱり最後のは今までのと全然違うよ。受けていて、めちゃめちゃ重たい感じが伝わってくる。」
「こんなに頑張ったのに、琥太郎に平然と受けられるのがなんかムカつく。」
なんだか美澪が、十兵衛爺ちゃんの突きを受けた後の爺ちゃんと同じような事を言っている。
しかし、最後に美澪が丹田で練った妖気弾は、前2つとは比較にならない位強くなっているのは間違いない。琥太郎が目で見ていても圧縮されている妖気の量が段違いに多いのは感じていたが、それがそのまま威力に繋がっているようだ。
「手の平で圧縮したやつもそうだけど、今までの普通の妖気弾と比べると格段に威力は上がってるから、練習して素早く扱えるようになれば攻撃手段は増えそうだね。」
琥太郎が美澪に声をかけるが、美澪は琥太郎にあまりにも簡単に受けられてしまったせいか、イマイチ納得いっていなそうだ。まあ琥太郎の場合、あの酒呑童子の酌威の、強烈に圧縮された2m以上ある妖気の塊でさえ難なく弾いてしまっている。琥太郎から余裕を無くすというのはかなり難易度が高そうだ。
「うん、練習する。」
まだちょっと不満そうではあるものの、さっそく美澪が妖気を練る練習を再開し始めた。
「あっ、美澪、ちょっと待って。まだもうちょっと美澪には試してみてもらいたい事があるんだけどいいかな。」
「えっ、まだ何かあるの?」
「何かあるってわけじゃないんだけど、今のが美澪にとっての必殺技と呼べるかといえば、それはちょっと微妙だと俺も思うんだ。もちろん、今までに比べたら段違いに威力が上がってるんだけどね。それで、更にこれからどうすればよいかって言われると俺にもわからないんだけどさ、取り合えず今は美澪の攻撃力を上げる事に繋がりそうな事を1つづつ試してみたいと思ってるんだ。」
「琥太郎の言う事は全部やってみる。やってみたい。今朝も言ったけど、琥太郎が言う事ならきっとうまくいく気がする。」
「そんなに信頼されちゃうとちょっと困るんだけどな…、まあとにかくやってみようか。」
美澪の信頼には応えたいが、現時点で明確な答えが見えているわけではない。あまり信頼され過ぎてもちょっと不安になる。とはいえ、今は出来る事、思いついた事をひとつづつやってみようと思う。
「次はね、これは何も新しい事じゃないと思うんだけど、武道の突きをやってみよう。」
「武道の突き?それなら琥太郎よりも私が上。」
「はははは、それはそうだね、間違いないよ。だけど、こないだ君津で十兵衛爺ちゃんの突きを受けた時に思ったんだけどさ、美澪の突きと十兵衛爺ちゃんの突きが全然違うんだよね。はっきり言って、十兵衛爺ちゃんの突きの方が美澪よりもずっと強い。だから、美澪にも十兵衛爺ちゃんと同じような突きが出来るようになってもらいたいと思うんだ。もちろん俺自身も出来るようになりたいけど、今回はとにかく美澪の練習ね。」
琥太郎が足を肩幅に開いて真っすぐに立つ。美澪には、その正面に立って構えてもらう。
「じゃあ、これで俺の腹に中段突きを何発か打ってみてもらっていい?」
「ふんっ、 ふんっ、 ふんっ…」
美澪が左右交互に突きを繰り出してきた。
琥太郎は、その突きを弾いたり流したりはせず、身に纏った自身の「気」でしっかりと受け止める。
はっきり言って、突きのスピードで言えば十兵衛爺ちゃんよりも確実に早いと思う。しかし不思議な事に、その威力は十兵衛爺ちゃんの方が間違いなく上だ。




