94_犬
その後、ひととおり店内を見て回ってから、あらためて流伽の指示する食品を琥太郎がカゴに入れていった。
今夜は栗ごはんにしてくれるらしい。更に秋鮭やキノコ類も購入し、季節感溢れる秋っぽいメニューになりそうだ。
栗の皮を剥いて調理するなど、琥太郎1人では絶対に作らないメニューなので、なんだか嬉しい。
買い物を済ませて帰宅すると、早速流伽が夕飯の下ごしらえを始めた。琥太郎が何か手伝うよと声をかけるも、大丈夫だから休んでいてと言われたので、そのままお言葉に甘える事にした。琥太郎はしばらくリビングでスマホを見ていたが、しばらくするとそのまま寝てしまっていた。
「琥太郎! 出来るようになったから見に来て!!」
突然の美澪の声で目が覚める。
目を擦りながら起きると、お腹には琥太郎のジャケットがかけられていた。寝落ちしてしまった琥太郎に流伽がかけてくれたのだろう。お腹が弱い琥太郎にはありがたい気遣いだ。
時計を見ると午後の3時半を過ぎている。どうやら琥太郎は1時間近く寝てしまっていたようだ。
「出来るようになったって、何を?」
「何をじゃないよ、自分1人で丹田で妖気を練れるようになったの!だから見に来て。」
「えぇっ、もう出来るようになったの?!ちょっと早すぎじゃない?」
最初は手の平で試していたので、丹田で妖気を練る事を始めたのは、今日の午前中というよりもお昼前といった感じだ。幼い頃から訓練を続けていた風音さんでも、琥太郎が補助をしてから出来るようになるまで数日かかっていた。それをほんの数時間で出来るようになってしまうとは、美澪が妖だからというよりも、やはり美澪が持ち合わせているセンスとか器用さのためなのだろう。
美澪に聞くと、午後からは代々木公園までは行かずに、琥太郎の部屋からもっと近い新宿中央公園で練習していたとの事だった。そのため、琥太郎も美澪と一緒に新宿中央公園に行く事にする。
「流伽、ちょっと美澪と出かけてくるね。」
「夕飯は何時くらいにする?」
「う~ん、遅くても7時までには帰ってくるようにするね。」
「帰る前にメールもらってもいい?」
「うん、わかった。ありがとう。ご飯楽しみにしておくね。」
新宿中央公園までであれば琥太郎のロードバイクで5分ちょっとの距離だ。
公園の入口に自転車を止めて、人の少ない奥へと歩いていく。
途中、犬連れの集団の横を通った際、数匹の犬が美澪に驚いて一瞬飛びのいた。そして少し遠巻きに美澪の匂いを嗅いでいた。
犬に美澪の事が見えているのか、それとも匂いだけで判断しているのかは定かでないが、琥太郎はおそらく犬には美澪が見えているのだろうと思っている。犬は時折、何もない空間を凝視している事がある。琥太郎は霊や妖が見えなくなっていた頃から、犬はおそらく人の目に見えない何か、いわゆる霊や妖を見ているのだろうと思っていた。
先程の犬が一瞬美澪から飛びのいていたが、一応美澪は水虎という妖である。犬が本能的に虎を恐れたのかもしれないし、関係無いかもしれない。犬と話を出来るのであれば、いろいろと聞いてみたいと思った。
琥太郎が犬の事について、たわいもない事をあれこれ考えながら歩いているあいだに、木に囲まれた比較的人通りの少ない場所に到着した。
「じゃあいくよ。ふんんんっ」
琥太郎がじっくり美澪を見てみると、美澪はちょっと変な掛け声とともに妖気を発しながら、その妖気を丹田で回転させて集めていった。
「おぉ、本当だ。凄いよ美澪、出来てるよ。しっかり回せてる!」
瞬く間に丹田での妖気の回転速度が上がり、美澪から発せられる妖気がみるみる凝縮されていく。
「ふんんんっ、ん!」
ドンッ!
再びちょっと変な掛け声を小さく発すると、美澪が丹田で圧縮した妖気を上空へと撃ちだした。
「本当にもう出来るようになっちゃったんだね。」
「ふぅぅ、へへへへ。」
美澪が琥太郎に向けてサムズアップのポーズをして笑っている。
「今のって、まだ何発も撃てるの?」
「問題ないよ。まだまだ平気。」
「じゃあ、せっかくだから威力を確認させてもらおうかな。また午前中みたいに、今までの普通の妖気弾と、手の平で妖気を圧縮して撃つのと、今の丹田で妖気を練って撃つやつの3種類を俺に撃ってみてもらってもいい?」
「うん!」




