93_破壊力
とりあえず一休みしてから流伽と食材の買い出しに出かける事になった。
流伽は近所にある大手スーパーのG8に行きたいらしい。流伽が生きていた頃は、まだスーパーG8はオープンしていなかったそうで、一度見てみたいとの事だ。
琥太郎が一休みしている間に準備をすると言って、流伽は押し入れに戻った。その後、30分ほどして出てきた流伽を見ると、いつもの半袖の黒のゴスロリ風ワンピースに、レース素材の黒のアームカバーというかハンドカバーというか、ロング手袋というか、そんなようなものを身に着けていた。指先が切れて少し指が出ている以外は、肘上までレースの薄い布でカバーされている。更に頭には大きなカチューシャのような帽子も被っていた。琥太郎には名前がわからないが、斜め上を向いたサンバイザーみたいなやつの厳つい版だ。(これで伝わるかなぁ…)
「やっぱり日光対策なの。」
「もちろんだよ。外に出るなら日焼け対策くらいしないとね。」
「えっ、日光対策って日焼けの事?やっぱり流伽も日焼けするんだ。」
「しません。別に日光にあたっても黒くはなりません。だって、せっかく外出するならそれなりのオシャレをしたいでしょ。女の子なんだからそういうのは気分が大事なの。」
先程大丈夫とは言っていたものの、やはり日に当たって弱ってしまうのを防ぐために日光対策しているのかと思ったのだが、日焼け対策を建前にした単なるファッションだった。やはり女の人は難しい。
流伽の希望通り、数本のビニール傘と一緒に1本だけ玄関に置いてあった黒い布製の傘をさして出かける。琥太郎が傘をさすと、流伽がすかさず腕を組んできた。
「えっ…」
「ふふふ…、だって、人から見えない私が傘をさして歩くわけにいかないでしょ。」
流伽は楽しそうに、いたずらっぽく笑っていた。
それにしても、腕を組まれている右腕の感触がやばい。普段からワンピースごしにも御立派な感じは伝わってきていた。腕を組まれて、実際に腕に押し付けられたその弾力は、底なしに深いといった感じの柔らかさだ。流伽は常に首まで閉じて胸元が隠れている、装飾多めのワンピースを着ている。そのため、大きい感じはしていても、それをあまり意識した事は無かった。ワンピースに秘かに内包されていたその胸は、琥太郎の予測を遥かに凌ぐ破壊力だった。
「なんだか知らない新しい建物が結構あるなぁ。この先の方南通りを右に行ったところに、まだコンビニはある?」
「えっ、あっ、うん、まだそれはあるよ。」
底なしに深い柔らかさの中で浮き沈みしている幸せな右腕に意識を持っていかれていた琥太郎が、突然流伽に話しかけられた事で、少しあたふたしながら返答した。
「んっ? 琥太郎、私に腕組まれるのは嫌?」
「そっ、そんな事無いってば。」
先程までやましい思考に浸ってしまっていた事もあり、いちいち少し動揺してしまう。
「えっ、じゃあ、腕を組まれて緊張してるの? ふふふっ、琥太郎のそんな顔初めて見たかも。」
24歳にもなって、この程度で動揺してしまうとは、なんとも情けない。思わず顔を赤くしてしまった琥太郎を見て、流伽が更に楽しそうにしている。
「もう、流伽、あんまりからかわないでよ。」
「ごめんごめん。ふふふっ…」
謝りながらも更にギュッと腕にしがみついてくる流伽に、必死に平静を装いつつ10分ほどでスーパーへたどり着いた。流伽は早速生鮮食品から見て回っている。
「う~ん、なんか凄く高い感じがするなぁ。今って、だいたいこんな感じなの?」
「そうだね、確かにここ数年で結構食料品も値上がりしたから、どこもこれくらいじゃないかな。しいて言えば、お肉類はここよりもボンガボンガの方が安い事が多いかな。逆に、魚類はこっちのG8の方が安い事が多い感じがするね。野菜類は同じようなもんかな。」
「へ~、そっか。私は生きていた頃の値段の感覚だから、なんかどれも凄く高く見えちゃうな。だけど琥太郎って、ちゃんと値段も把握していて主婦みたいだね。」
「東京に出てきて、いい加減一人暮らしも長いからね。」




