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87_いっぱい癒しちゃいます

 先日滝井さんのマッサージを受けた際、滝井さんの手からうっすらと妖気が発せられているのが感じられた。その妖気からは邪悪な感じがしなかったので、琥太郎は自身の「気」の防御を緩めて、滝井さんが発している妖気が自身の体に届くようにしたのだが、それがとても心地良かったのだ。


「えっ、さすが琥太郎さんですね。やっぱりそういうところまで判るんですね。施術の際はマッサージしながら、こっそり回復効果のある妖気を流してました。」


 滝井さんのマッサージが効くと感じていたのは気のせいでは無かったようで、滝井さんの手から発せられていたのは、やはり回復効果のある妖気をだったらしい。


「滝井さんはそういうのが得意なんですか。」

「得意という程ではないですけど、疲れを癒したり、軽い怪我を治すみたいな事は出来ます。その代わりというわけではないのですが、戦闘で必要になるような能力に関してはからっきしダメダメなんです。」


 戦闘がダメダメとはいっても、怪我まで治せるなんて実は凄い能力なのではないだろうか。


「それって、蛟という種族の特性みたいなものなんですか。」

「う~ん、確かに似たような事が出来る蛟は結構多いと思います。種族の特性という意味では、私達は清らかな水を扱う事に長けています。人間が蛇を信仰の対象にしている事がありますけど、蛟が清らかな水を扱うという事が影響している部分もあるのではないかと思います。清らかな水にはもともと癒しの力があるので、その延長で私も疲れを癒したり怪我を治したりみたいな事が出来るようになりました。それと、お店がある場所には地下に水脈があるので、私のこうした能力も発揮しやすいんですよね。」


 新宿を通る甲州街道と、その地下を走っている京王線沿いには、旧玉川上水がある。地表に水は流れていないものの、玉川上水跡は遊歩道になっていて、滝井さんのお店もこの遊歩道沿いにあった。水脈というのは、この玉川上水の事を指しているのだろう。


「やっぱり滝井さんって凄かったんですね。俺マッサージが好きだから学生時代もトライアスロンのレース前後とかであちこちマッサージj店には行きましたけど、滝井さんのマッサージって明らかに疲れが取れる感じがしてましたからね。」

「そう言ってもらえると嬉しいです。私は幼い頃に妖としての力が弱くていじめられたりもしたので、こうして誰かに喜んでもらえるお仕事が出来ているのが幸せなんです。琥太郎さん達には本当にお世話になりました。次回いらしてくれたらいっぱい癒しちゃいますから、是非またいらしてくださいね。」


 ”いっぱい癒しちゃいます”とは、なんとも素敵な響きだ。今回の呪いの様子見をかねて、近々滝井さんのお店に行ってみようと思う。

 滝井さんと別れてレンタカーを返したあとの帰り道、美澪から私もマッサージされたいと言われた。確かに、琥太郎だけ滝井さんのスペシャルなマッサージを受けて、美澪に何もないのはちょっと可哀そうな気もする。


「美澪は滝井さんに可視化の方法も教わらないといけないんだよね。近々一緒に行ってみようか。」

「うん、絶対に可視化は出来るようになりたい。それと、琥太郎は早く私の必殺技を考えてよね。」


 風音さんに霊気の練り方をアドバイスした時からお願いされている、美澪の必殺技の開発に関してもまだ何もしてあげる事が出来ていない。君津の十兵衛爺ちゃんのところから帰ってきてから時間を取れずにいたが、必殺技のために琥太郎も美澪に試してもらいたい事が浮かんでいた。こちらも近々時間を取って、また美澪と出かけてみようと思う。


「なんだか随分と忙しくなってきちゃったな…」


 ふと琥太郎はそんな事を呟きつつ、少し笑みをこぼした。

 東京で就職をして、だいぶ仕事にも慣れてきた。それとともに、いつしか会社に行って仕事をして、帰って寝て、また翌日会社に行くといった日々の繰り返しに染まってきてもいた。せいぜい、時折スポーツクラブで軽く泳ぐ程度で、友人と会って何かをするという事もほとんど無くなった。それが、美澪が琥太郎の元を訪れてからは、琥太郎の封印が解け、霊や妖との新しい出会いがあり、昔の知り合いの妖達にも再び会う事が出来た。なんだか、少しづつ乾いて色褪せてきていたような琥太郎の日常が、急に瑞々しくなり、再び鮮やかなが色彩がそこに差し込んできたような感じだ。

 琥太郎はその忙しさに、そこはかとなく心地良さを感じつつ、これから為すべき事を思い気持ちを新たにした。


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