86_ヒーリングの効果
「もうその人って、滝井さんのところには来てないんですか。」
「はい、3か月位前にお店にいらしたのが最後で、それ以降はいらしてないです。昨年から、毎週のように週末に来店してくれてた方なんですけど、今年に入ってから何度も食事に誘われていたんです。それをずっとお断りしていたんですけど、最後にいらした際もやはりお食事のお誘いをお断りしました。」
「えっ、それだけですか?」
「はい。時々お客様からお誘いを受ける事はあるんですけど、基本的に全てお断りしてます。今回、琥太郎さん達と外でお会いしましたけど、お客様とお店の外で約束してお会いしたのはこれが初めてでした。」
祟さんはフラれたと表現していたが、食事の誘いを断られただけだったらしい。それだけで呪い屋に依頼までするとは、ちょっと拗らせてる人のようだ。
「お客さんって事は、滝井さんは相手の連絡先も知ってるんですよね。」
「そうですね。最初の登録の際に嘘の記載をしていなければという事にはなりますけど、一応登録時に書いてもらった住所とか電話番号はお店にありますね。」
「その人の事も確認してみます? どうやって確認するかはまだわからないですけど。」
「琥太郎先輩、今回みたいに、いきなり脅迫するのはどうかと思いますよ。今回の場合は現行犯みたいなところもあったので仕方ないとは思いますけど。」
「いや、そんな、さすがにいきなり正面から乗り込もうなんて思ってないってば。」
なんだか風音さんから、危険人物扱いされ始めたような気がする。
「皆さんありがとうございます。だけど、取り合えずは様子を見てみるという事にさせてもらえませんか。今までの呪いも無くなるという事ですので、このまま何も無ければ私はそれでいいです。」
「もちろん、滝井さんがそれで良いというのであれば俺達は構わないですよ。それでいいですよね、風音さん。」
「もちろん私も構わないです。一応、今日お渡しした身代わりの形代を身に着けていてくれれば、呪術的な攻撃などはある程度防げると思います。直接的な攻撃に対しても、多少は効果があると思いますけど、そちらはあまり期待しないでください。それと、もしも身代わりの形代が黒ずんだり破れたりしたら教えてもらえますか。その場合は何かしら呪術的な攻撃を受けている可能性がありますから。」
陰陽師直伝のお守りみたいなものだし、これがあるだけでもかなり安心だろう。幸い、妖である滝井さんへの副作用的なものは、今のところ無さそうだ。
その後、風音さんと滝井さんも連絡先を交換してお開きとなった。琥太郎の運転で初台へと戻る途中、風音さんは自宅がある分倍河原駅近くで下車して別れた。滝井さんも初台の自宅近くまで車で送ったが、別れ際にあらためてお礼を言われた。
「琥太郎さん、今回は本当にどうもありがとうございました。私一人では呪われているという事自体気づきませんでしたし、本当に琥太郎さんに救われました。何かお礼をさせていただければ良いのですが、すぐには思いつかないので、琥太郎さんも何か私に出来そうな事があれば遠慮なく仰ってください。」
「そんなの全然気にしないでください。またマッサージを受けに伺いますから、その時は宜しくお願いします。」
「わかりました。いつでも無料で施術しますから、遠慮なくいらしてくださいね。」
滝井さんが無料で施術しますと言ってくれているが、無料にしてもらったのではかえって気を使って足が遠のいてしまいそうだ。
「いやいや滝井さん、普通にお金は払いますから。本当にそんな気になさらないでください。」
「じゃあ、ヒーリングの効果を上げちゃいますね。」
「あっ、こないだマッサージしてもらってる時に、滝井さんの手からうっすらと妖気が出てるのを感じてたんですけど、あれの事ですか。」




