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81_呪い屋

 男はそう言うと、立ち上がってキャビネットの引き出しを開けた。そこから名刺を取り出すと、琥太郎と風音さんに差し出してきた。


「では、あらためてご挨拶させていただきます。私は祟呪怨たたり じゅおんと申しまして、呪い屋というお仕事をしています。」


 差し出された名刺にも、祟呪怨という名前が記載されている。さすがにこれは、偽名というか、後付けで考えた名前だろう。小説家のペンネームとか、風俗嬢の源氏名といったところだろうか。


「ありがとうございます。申し訳ありませんが、俺らは特に名刺を持ち合わせていないのですが、俺が琥太郎こたろう、こちらは風音かざねさんです。」


 相手が名刺を出して正式に名乗っているのに対して、ちょっと失礼かとも思ったが、琥太郎はフルネームで挨拶はせずに名前だけ伝えて済ませた。


「琥太郎さんと風音さんですか。では琥太郎さん、知人の方への呪いが一番右側の壺だと判っているにも関わらず、なぜ関係ない方の壺の中身を燃やしてしまうんですか。」

「いや、特に何もしてないつもりですよ。呪い屋さんって事は、失礼ですがあまり良くない事もなされていそうですので、たまたまバチが当たっただけじゃないですか。まあただ、仮に俺が何か出来るとしても、たたりさんからお話しを伺うまでは、いろいろと判らない事もありますからね。今は呪われてる本人には呪いも届かないようにしてますから、関係ありそうな物はまだ壊さずに、一応そのままにしておこうかとは思いますよね。」


 琥太郎が何か出来る事は匂わせつつ、あくまでも琥太郎自身は何もしていないという体を崩さずに話を進める。祟さんは少しだけ忌々しそうな表情を浮かべている。


「それで本題なんですけど、祟さんが呪い屋という事は、俺の知人の事も依頼を受け呪ってるって事ですか。」

「そのとおりです。」

「誰が依頼したかは教えてもらえないですか。」

「申し訳ありません。それについては、お客様との守秘義務の契約がありますので、お伝えする事が出来ません。」

「では、なぜ依頼主が俺の知人に、そんなに恨みを抱いているかは教えてもらえませんか。」

「それも申し訳ありませんが、守秘義務ですのでお話出来ないです。」


 琥太郎と風音さんも企業の新商品情報を扱う仕事柄、守秘義務を遵守する事については日頃からかなり敏感な方だ。祟さんの主張に関しては、確かに理解できる部分もある。とはいえ、実際に滝井さんに被害が及んでいる現状でおいそれと引き下がるわけにもいかない。


「俺からのお願いは3つです。一つ目は、俺の知人への呪いを解除して、今後一切手出しをしない事。二つ目は、依頼主が誰であるか、そして三つ目が、依頼してきた理由について、これらを教えてください。」

「二つ目と三つ目のお願いについては、先ほどもお伝えしたとおり、守秘義務契約がありますから難しいです。呪いの解除や今後に関しては、実際にこうして私の事を特定までされてしまってますからね。料金次第では依頼主を説得してみる事もやぶさかではないといったところですかね。」

「知人に危害を加えておきながら、お金まで請求してくるとは、随分と厚かましくないですか。あまり欲をかいて、これ以上バチが当たらないといいですけどね。」


 琥太郎はそう言って、テーブルに置かれている壺と、キャビネットに収められている怪しげな素材を一瞥した。


「それは脅しですか。」


 祟さんがそう言って、ゆっくりと立ち上がった。次の瞬間、祟さんは羽織っているジャケットの内ポケットから形代を取り出して、琥太郎と風音さんの方へとそれを投げた。投げられた形代は白煙を上げて消滅し、同時に鎖状になった強い霊気が琥太郎と風音さんを襲う。


ボワンッ!


 投げられた形代は、琥太郎を風音さんを拘束するための呪術だったようだ。しかし、琥太郎が飛んできた霊気を「気」を操作する事で弾き、そのまま散らしてしまった。風音さんに向かっていた霊気も一緒に操作したが、風音さん自身も何か対策をしていたようで、霊気が当たる直前で風音さんからも強い霊気が風音さんを守るように噴出していた。


「風音さん大丈夫?!」

「はい、私は平気です。」


 琥太郎が風音さんに声をかけている後ろで、祟さんがキャビネットの引き出しから何かを取り出して掴むと、それを風音さんを呪っている一番右側の壺へ投げ込んだ。


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