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80_何もしてない

「ちょっと、琥太郎先輩、何してるんですか!」

「いや、一応、ノックした以外は何もしてないって事にする予定。」

「それって、何かしてるって事ですよね。」


 風音さんが怪訝そうな顔で琥太郎に聞いてきた。

 するとその直後に玄関のドアが開いた。


「ちょっと!いきなり何するんですか、やめてください!」


 琥太郎達に叫びながら、玄関から1人の男性が出てきた。


 身長は175cmくらい。

 細身だが、華奢という程ではない。

 赤く染めた長髪に、赤縁の眼鏡。

 黒の細身のパンツに黒地のペイズリー柄のシャツ、その上には薄手で赤い、丈の長いジャケットを羽織っている。

 手には黒の革手袋をはめていた。


 率直に言って、だいぶ胡散臭い。


「こんにちは。やっぱり、中にいらっしゃったんですね。」

「どちら様ですか。私はお会いした覚えがないですけど。以前に会った事があります?」

「いいえ、お会いするのは初めてです。」

「じゃあ、なんでこんな酷い事するんですか。」

「何もしてないですよ。インターホンを鳴らして、ドアをノックして、お声をかけただけですけど。」

「はあ?」


 男性に何もしてないと答える琥太郎の表情は、いかにも何かしているといった感じの解りやすい笑顔だ。

 風音さんとダディは、そんな琥太郎と男性のやり取りを黙って見ている。

 男性は琥太郎達が何かしたのを確信しているようだが、琥太郎達はドアの外にいたので、それ以上追及してもシラを切られればどうしようも無い。


「とにかく、これ以上中の物を燃やすのはやめてください!」


 男性の言葉を聞いて、風音さんが一瞬ジト目で琥太郎の方を見た。

 風音さんは、琥太郎がいきなりこんな力業で相手の家に乗り込んでいくとまでは思っていなかったようだ。


「あの、俺たちは少しお話を伺いたくてここに来たんですけど、話は出来ませんか。」

「もう、わかりましたよ。どうぞ、中に入ってください。」


 男性はそう言って部屋の中へと入っていった。

 琥太郎が玄関のドアの外で後ろを振り返ると、玄関のドアから10mほど離れた場所に、不可視状態の滝井さんと美澪が立ってこちらの様子を見ていた。


「知ってる?」


 琥太郎がドアの方を指さしながら、ほとんど声を出さずに口だけ動かして滝井さんに尋ねた。すると、滝井さんは顔の前で手を動かしながら首を横に振っている。滝井さんも出てきた男性の事は知らないようだ。それだけ確認すると、琥太郎達も部屋の中へと入る事にした。


「ダディは外で滝井さんについていてあげて。」


 風音さんがダディにそうお願いすると、ダディは風音さんから離れる事に不満なようで顔を曇らせるも、しぶしぶその指示に従っていた。

 部屋に入ると、そこはリビングが少し広目の1LDKになっていた。琥太郎達は男性に促されるまま、リビングに置かれた応接セットのソファーに腰をかける。

 部屋を見渡すと、壁際に配置されたテーブルの上に、手のひらサイズの小さな壺のようなものが3つ、少し間をあけて置かれていた。そのうちの一番左側の壺からは、うっすらと煙が出ている。

 その横のキャビネットの中には、乾燥したトカゲや蛇、更には亀の甲羅などが整理されて収められている。いかにも怪しい感じの雰囲気だ。


「もう、これ完全に使い物にならなくなっちゃいましたよ。」


 男性が、うっすらと煙が出ている壺を見ながら呟いている。


「なんだか大変そうですね。」


 琥太郎が少し悪そうな笑顔で男性に声をかけた。


「もう…、あきらかにあなた達じゃないですか。そうでなければ、あなたの声に合わせて壺から炎があがるなんて事が起きるわけないじゃないですか。」

「先ほども言ったように、俺たちは少し話がしたくてここに来ました。俺たちの知人が、どうも呪いをかけられてるようなんですよね。それで今日は、その呪いの霊気を辿ってここに来ました。その一番右の壺が、俺たちの知人にかけてる呪いの元みたいですね。」

「ああこれですか。ふむ、どうやってるのかはわかりませんが、いろいろとこうした儀式にお詳しい方のようですね。」


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