78_身代わりの形代
ここで風音さんが一つ大きく深呼吸した。
「じゃあ、いきますね。มันเป็นคาถาทดแทน」
風音さんが祝詞を唱えると同時に、風音さんの体から霊気溢れ出た。しかし、それは以前のように全方向に大きく広がって噴出するのではなく、風音さんの体を包むように、風音さんの体の周囲に留まりながら、徐々に膨らんでいっている。その霊気の中で風音さんは、軽く顔をしかめるような、ちょっと変な顔をしながら、体をクネクネとよじらせていた。どうやら、必死に霊気を丹田に集めて回そうとしているようだ。
ここで琥太郎が、風音さんの丹田を中心に、向かって時計周りに霊気を軽く回してあげる。すると、琥太郎が軽くまわした霊気は加速しながら回転が速まり、一気に風音さんの丹田へと収束し圧縮されていく。既に風音さんのクネクネは止まり、顔は歯をくいしばるような表情に変わっていた。
風音さんの体の周囲を包むように留まりながら膨らんでいた霊気が無くなり、全て丹田へと圧縮されながら集中する。
「ふんっ!」
風音さんが軽く掛け声のように息を吐くと、形代に向けていた風音さんの手の平から一気に霊気が噴出した。もちろんその霊気は周囲に広がる事なく、ギュッと細く渦を巻きながら形代に一直線に向かっていく。そして形代にその霊気が届くと同時に、形代がうっすらと青白く輝いた。10秒ほどその状態が続いた後、風音さんの手から出る霊気が徐々に弱まり、青白い輝きも収まっていった。
「ふぅ、これで出来たと思います。琥太郎先輩、どうもありがとうございました。自分一人ですぐに霊気を練れるようになればいいんですけどね…。滝井さんすみません、一応確認のため、石を持ったまま、ここから離れてみてもらってもいいですか。」
風音さんが滝井さんにそうお願いして、滝井さんがコンビニの駐車場の端まで移動した。同時に、琥太郎と風音さんも滝井さんとは反対側の駐車場の端へと移動する。念のため、美澪には滝井さんの傍についていてもらった。
「風音さん凄いよ。滝井さんの石に流れ込んでいた邪悪な霊気が、今は完全に風音さんが作った形代に流れ込んでるよ。」
「良かったです! なんか私も凄く嬉しいです! ずっとずっと修行を続けていても、ほとんど何も出来なかったのに、本当に琥太郎先輩のおかげです。」
「そんな事ないってば。ずっと風音さんが修行を続けていたからだよ。」
ここで再び滝井さんと美澪を呼び寄せ合流し、形代が上手くいった事を報告した。その上で今度は、滝井さんの持っている石を風音さんに預かってもらい、滝井さんには風音さんが作った形代を持ってもらった。この状態で、風音さんは石を持ったまま離れてもらう。
「おおっ、やっぱりうまくいってる! 邪悪な霊気が全部、滝井さんではなく形代に流れ込んでいくよ。滝井さんはどうですか? どこか調子が悪いところとかありませんか?」
「いえ、何も問題ないです。」
「良かった。やっぱり成功したみたいですね。」
風音さんにも結果を報告したところ、あらためて安心していた。
「これで、呪いの元に乗り込んで何かあっても、少しは滝井さんの危険を減らせるね。ところで、この形代って、呪いを受け続けて、どのくらいの時間効果が続くの。」
「それは呪いの強さによって大きく変わるんですけど、普通は数日は持つはずです。」
「まあ、それならとりあえずは十分だよね。普段は滝井さんの持ってる石さえあれば大丈夫なわけだから、とにかく今日このあと何かあった時に効果を発揮してくれればいいんだもんね。」
「琥太郎先輩、念のためダディにも一緒にいてもらいたいんですけど、顕現させるのを手伝ってもらってもいいですか。」
「あっ、そうか。それがいいかもね。」
再び風音さんがポシェットから形代を取り出し、祝詞を唱えた。それに合わせて琥太郎が風音さんの霊気を軽く回してあげる。そこから風音さんが一気に霊気を圧縮する。
ドーンッ!
軽い爆発音のような音を立てて、不可視状態のダディが顕現した。顕現する時に音は鳴ったものの、目の前のとおりを多くの車が通行している上、駐車場の端だった事でまわりの人たちは何も気にしていないようだ。
「えっ?!」
顕現したダディを見て、驚いた滝井さんが後ずさりしている。その横で、美澪は軽く警戒するように立っていた。
琥太郎が滝井さんにダディの事を簡単に説明する。
「滝井さん、彼は風音さんの式神だから大丈夫ですよ。」




