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76_アパートの1階

「うん、何度か挑戦してみた事はあるけど、全く出来なかったし、やり方もよく判らなかった。」

「私も幼い頃は出来なかったんです。だけど、一度コツみたいなのを覚えてしまえば、私の場合は簡単に出来るようになりました。確かにずっと試行錯誤していても出来るようにならない妖もいるのであまり無責任な事は言えないですけど、もしかしたら練習次第で出来るかもしれないですよ。」

「出来るようになるならやってみたい。やり方を教えて。」

「そうですね。今日はちょっと私のために皆さんにこうして来ていただいてるので、今度初台に戻ったら私が可視化する時のコツみたいなのをお伝えしますね。」


 もしも美澪も人から見えるようになれるのであれば、琥太郎もそれは嬉しい。そういえば風音さんもダディの顕現の際に可視化させたりさせなかったりを使い分けているが、いったい何が違うのだろう。式神と妖ではやはり原理も違うのだろうか。美澪が滝井さんに教わりに行く時は、時間さえ合えば琥太郎も一緒に行かせてもらおうと思った。


「滝井さんって、逆に普通の人からは見えないようにもなれるんですか。」

「はい、もちろんなれますよ。私だけでなく妖にとっては、人から見えない状態の方が普通ですからね。」


 滝井さんの話では、人に見えない状態になる事の方が簡単らしい。着衣なども問題なく一緒に見えなく出来るそうだ。人から見えたり見えなくなったりを自在に出来るというのは便利そうでうらやましい。人で言うならば、男なら誰もが夢を抱いた事があるであろう透明人間だ。やはり美澪が滝井さんに教わりに行く際は一緒に行きたいと琥太郎は思った。


「風音さん大丈夫?もしも大変だったら、しばらく俺が運転変わるよ。」

「ありがとうございます。一休みしたのでもう平気です。それに、この辺は甲州街道よりもずっと運転しやすいです。」


 20分ほどコンビニの駐車場で立ち話をしながら休憩したのち、あらためて風音さんの運転で出発した。相変わらず、妖気は西の方から流れてきている。


「う~ん、たぶん気のせいではないと思うんだけど、流れてきてる霊気が、ちょっと濃くなってきた気がするなぁ。」


 東京の稲城市いなぎしからゴルフ場のある丘を越えたあたりで、これまでよりも霊気が少し濃く感じられるようになってきた。霊気の流れを目で追う限り、霊気の発信元はまだ先のようではあるが、少しづつ近づいてきているのは間違いない。

 そこからは、先に進むごとに確実に霊気が強まるのが感じられた。そして、更に20分程走ったあたりで、ついに前方に霊気が収束している地点が見えてきた。八王子よりは手前の、駅でいうと京王線の長沼駅ながぬまえき近くだ。現在の通りからは少し外れてはいるものの、そう遠くはない。


「とにかく、いったん現場に行ってみようか。」


 霊気が収束して発せられている地点は、表の大きな通りから少し入った、京王線の踏切を渡ってすぐのアパートのようだった。そのアパートの近くを少しスピードを落として車で通過すると、アパートの1階の窓から濃い霊気が出てきているのを確認できた。


「間違いなくあの部屋だね。いったん少し離れたところで作戦を整理しようか。」


 琥太郎達は表の通りに戻り、あらためて近くのコンビニの駐車場に車を止めた。


「さっき家の前を通った時、部屋の中に1人分の人の気配を感じたから、今誰かがいるのは間違いないんだよね。だから、まず最初は俺と風音さんで家に行ってみて、インターホンを鳴らしてみようか。」

「私は車で待機してた方がいいですか?」

「いや、出来れば滝井さんには、中から出てくる人を確認してもらいたいですね。もしも滝井さんの知り合いだった場合に、相手によっては対応を変える必要があるかもしれないですよね。」

「う~ん、だけど、いきなり私達と一緒に相手の家に滝井さんまで乗り込むのはちょっと危険じゃないですか。」


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