71_呪う
「そう出来れば良いんですけど、それはちょっとやめておくべきであるように思います。今話した方法って、あくまでも人間を前提として研究されてきたはずの術ですからね。妖である滝井さんに同じ事をした場合に、人と同じようにいくかどうかがわからないですし、滝井さんに何か害が出る可能性だってあります。それに、体の一部を媒介にした形代というのは、対象者との親和性が凄く高いんです。対象者と形代がリンクして繋がってるような状態です。それだけに、その形代を通して、私から悪意のある攻撃なんかも容易に出来るようになります。もちろん、私はそんな事をするつもりは無いですけど。だけど、陰陽師ではないとはいえ、少なくとも陰陽師の関係者のような立場である私が滝井さんに、いきなりそんな危険な形代を作らせて欲しいとお願いするのは、ちょっと失礼にあたるんじゃないかと思いますし、滝井さんだって、いきなりそんな事をするのは嫌なんじゃないかと思います。」
「なるほど…、確かに、いきなり連れてきた陰陽師の関係者を信用しろっていうのは無理があるよね。」
「う~ん…」
滝井さんは、ちょっと悩ましげな表情を浮かべながら、琥太郎と風音さんの話を黙って聞いている。美澪も、時折滝井さんの方を見つつ、やはり特に意見などは述べずに静かに聞いている。
「呪いを移す形代って、滝井さんの髪の毛とか爪なんかを使わないと、どうしても駄目?流れてきている霊気を全部風音さんの形代に集めちゃえばなんとかならない?」
「はい、そういうのを使って形代と呪いの対象者をリンクさせないと、霊気を形代に集められないんで…、あっ、そうか、琥太郎先輩なら、別にそんな事しなくても、形代に霊気を全部持ってこれちゃうって事ですか。」
「うん、今は石に向かって流れてきてる霊気を、全部風音さんの形代に向かわせる事位なら出来るよ。ただ、俺がいる間だけにはなっちゃうけどね。」
そう言うと、風音さんがじっと考え始めてしまった。他のみんなは、黙って風音さんの次の言葉を待っている。
「確かに、霊気を全部形代に向かわせてもらえば、それで出来る事はありそうですね。形代を呪いの対象者の完全な身代わりにするのは難しそうですけど、呪いを返すくらいなら出来るんじゃないかと思いますし、それ以外にも何かと今よりは出来る事が増えそうですね。それに、それなら形代と滝井さんがリンクするわけではないから、形代を通して私から滝井さんを害する事が出来るような繋がりにもならないですしね。といいますか、さっきから私が滝井さんに何かするみたいな話をしてますけど、そんな事するつもりは本当にないですからね。」
「なんだかいろいろと気を使っていただいてありがとうございます。」
滝井さんが苦笑いしながら風音さんにお礼を言っていた。
「それで呪いを返せちゃうの?」
「そうですね。呪いを返す位なら出来るはずです。」
「へえ、やっぱり風音さんって凄いんだね。」
「そんな事ないですよ。呪いを返すのって、そんなに難しい事じゃないんです。言い方を変えると呪いって、そもそも返りやすいんですよ。」
そこから、風音さんが呪いについての解説をしてくれた。
「まず、誰かを呪う事って、そんなに難しい事ではなくて、結構簡単に出来ちゃいます。もちろん、結果とか効果を問わなければという事にはなりますけね。一番シンプルな呪いは、悪意のある言葉を発する事です。言霊って言葉を聞いた事ありますよね。この言霊という言葉でも表されるとおり、人の発する言葉には、程度の差こそあれ力があって、自分やまわりの人に影響を与えます。そこで、しっかりと強い思いで念を込めながら、悪意のある具体的な言葉を発すると、これが呪いになります。発する言葉はシンプルで具体的な方が、より念を込めやすいと言われてます。それと、起こって欲しい事象を言葉にする事が重要です。例えば、よくある呪いの言葉だと、「○○死ね」という命令形にするのではなく、「○○は死ぬ」と事象を言葉にする感じですね。更にその時に、具体的にどういった事が起きて死んでしまうのかといった事をイメージしながら念じると、更に効果が上がります。例えば、「○○は死ぬ」と言葉を唱えながら、○○さんの心臓が止まるイメージを頭の中にはっきりと思い浮かべるといった感じです。あっ、つい、呪いの解説なんか始めちゃいましたけど、絶対にこんな事実践しないでくださいね。」




