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68_妖の石

「滝井さん、その石って前から置いてましたよね。」

「あっ、はい。さっきも言ったとおり、お守りみたいなつもりで地元の秋田から持ってきたやつです。東京に持ってきてからは、ずっとここに置いてましたね。」

「家には持ち帰ってないんですか。」

「はい。これ、結構大きくて重たいから、普段はお店に置きっぱなしにしてます。」

「う~ん、こういう事言うとなんか凄く怪しく思われそうですけど、取り合えずしばらくはその石を常に持ち歩いた方が良いかもしれないです。」

「えぇ?どうしたんですか、急に。」


 どこからか漂ってきている邪悪な霊気を、この石が吸い取ってくれているのは間違いなさそうだ。しかし、何をどう伝えたらよいのかが難しい。いつもお世話になっていた滝井さんが、目の前で邪悪な妖気に害されていそうなのに、それを放っておくのはあまりにも忍びない。


「よろしければ、近いうちに一度お茶でもしませんか。」

「えっ、う~ん、琥太郎さんからそういったお誘いをしてもらえるのは嬉しいんですけど、一応お客様からのそういったお誘いはお断りさせてもらってるんです。ごめんなさい。」

「何っていうか、その~、滝井さんって、妖さんですよね。」

「えっ!」


 まだ琥太郎にも、今の滝井さんの詳しい状況がわからない。しかし、詳細を確認しようにも、ゆっくり話せないのでは何も出来なそうだ。そこで琥太郎は仕方なく、滝井さんが妖である事に気づいている事を明かした。


「驚かせちゃってごめんなさい。俺、小さい頃は妖とか霊なんかが見えたり判ったりしてたんです。だけど小学校にあがる前に、両親にそういう能力を封印されちゃってたんですよね。それが最近、その封印が解けて前みたいに見えて判るようになったんです。だから、滝井さんが人じゃないって事に気づいたのも今日が最初です。」

「う~ん…」


 突然の話に、滝井さんはまだ琥太郎の言っている事を信じていいかどうか悩んでいるようだ。


「え~っと、どう説明したら信じてもらえるかがわからないんですけど、マッサージの時、滝井さんって手から妖気を出して施術してくれてますよね。そういうのも見えました。」

「もしも私が妖だったとして、琥太郎さんは私と会ってどうしたいんですか。」

「こう言っちゃうとなんなんですけど、滝井さんが妖だって事自体は、どっちでもよいというか、俺としては、これまでどおり、変わらずに接して欲しいです。会ってお話したかったのはその事についてじゃなくて、さっき滝井さんが最近体調が悪いみたいな事を話してたじゃないですか。その原因が解りそうだったから、できればいろいろ話をしてみたいと思ったんです。」

「私が妖かどうかはどっちでもよいって、琥太郎さんはそういうの気にならないんですか。」

「俺、幼い頃、人間の友達がいなくて、友達って妖だけだったんです。今も世間的には一人暮らしなんですけど、実際には幼馴染の妖と一緒に住んでます。ちなみに、いろいろあって幽霊さんも部屋にいて、3人暮らしみたいになってます。」

「ふふふふふ、何かそれ、凄い生活ですね。う~ん、わかりました。琥太郎さんを信用する事にしますね。琥太郎さんの言うとおり、私は妖で間違いないです。」


 なんとか滝井さんが信用してくれたようだ。


「ありがとうございます。それで滝井さんの体調の事なんですけど、なんだか滝井さんに向かって、邪悪な感じの霊気が流れてきてるんです。その邪悪な霊気を、滝井さんが今持ってる石が吸収してくれてるんですよね。その仕組みとか理屈は僕にも全くわからないんですけど、今日そういうのが見えたから、もっと詳しく滝井さんから話を聞ければ、何か役に立てるんじゃないかなと思ったんです。」

「なるほど…。この石はね、私達妖にとって害がありそうな攻撃とか結界なんかを防いでくれる力があるんです。マッサージの時って、相手に直接触れて施術するじゃないですか。人によっては、神社とかお寺のお守りなんかを身に着けてる人も結構いらっしゃるんですよね。そういったお守りを身に着けてる人に直接触れたりすると、お守りの効力で私にも影響が出ちゃうんですよね。そういう時に、近くにこの石があると、そうしたお守りの効力を弱めてくれたり無効にしてくれたりするんです。だから、琥太郎さんの言う邪悪な霊気に対しても、この石が効いてるんだと思います。」


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