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66_滝井さん

 翌日、まだまだ筋肉痛の治まらない体を引きずって会社に行くと、風音さんが嬉しそうな顔で話しかけてきた。


「琥太郎先輩、聞いてくださいよ。ついに、ついにですね。自分一人でダディを顕現させられたんですよ。」

「え! 凄いじゃん。おめでとう。」


 風音さんは、この連休も一人で山中湖のキャンプ場に行っていたらしい。そこでひたすら練習をしていたそうなのだが、連休の2日目についに一人で霊気を練る事が出来て、ダディを顕現させられたと言っていた。しかしながら、毎回確実に出来るわけではななく、結局一人で霊気を練る事が出来たのはダディを顕現させた2日目の1回と、その翌日にもう1回出来ただけらしい。


「それでも凄いよ。凄い凄い。確実に進歩してるね。」

「はい。もう本当に琥太郎先輩のおかげです。なんとかもっとコツを掴んで、確実に霊気を練れるようになるように頑張ります。ところで、琥太郎先輩はなんだか体が痛そうですけどどうしたんですか。」

「うん、俺は連休を使って、子供の頃によく遊びに行っていた実家近くの妖の里に行ってたんだ。封印が解けたからその報告とかを含めてね。それで、美澪の育ての親でもある河童の爺ちゃんのところに泊まらせてもらってたんだけど、その爺ちゃんが武道の道場をやってるのね。道場で子供達に武道を教えてるんだ。俺も子供の頃にそこで一緒に稽古させてもらったりしてたんだけど、懐かしくなって稽古に参加しちゃったりしたらさ、もう筋肉痛で動けないよ。」

「はははは、先輩、もうおじさんが近づいてきたんじゃないですか。」

「なんか思ってた以上に体がなまってるみたいでちょっとショックだよ。美澪にも、もっと体を鍛えろって言われちゃった。」


 日中には顧客のところに顔を出したが、そこでも体が痛そうにしている琥太郎を見て笑われてしまった。


「「……そこまでハードな運動をした自覚は無かったんだけどなぁ…」」


 この日は、午前中のうちにマッサージを予約しておいた。お店の名前は晴照屋はれてるやさんで、予約するのはいつもの滝井たきいさんだ。学生の頃からトライアスロンの試合前後などでお世話になっていて、大学卒業後も疲れを感じたりすると時々マッサージしてもらいに行っている。


 滝井真理湖たきいまりこさん

 見た目は20代後半といった感じ。

 身長は160cm位で、細身の美人さん。

 ショートカットで快活そうな見た目だが、凄く穏やかで柔らかい感じの人だ。

 秋田出身で、高校時代はハンドボールをやっていたらしい。


 自身もスポーツをやっていたという事で、琥太郎がトライアスロンをやっていた頃も、親身になって対応してくれた。何より、他のマッサージ店では、施術中はそれなりに気持ちよくても、特別疲れが取れるといった感じまではしないが、滝井さんから施術を受けた後は、本当に疲れまで取れるような感じがするのだ。

 定時を過ぎて、ちょっとだけ残業した後に、自転車でマッサージ店に向かった。場所は、初台の駅近くの玉川上水沿いの建物の2階だ。


「こんにちは。」

「あら、琥太郎さん、久しぶりですね。お待ちしてました。」


 お店に入ると、いつもマッサージをお願いしている滝井さんが出迎えてくれた。


「「……ええっ! 滝井さんって妖だったの?!…」」


 滝井さんを見てすぐに、滝井さんが妖である事に気が付いた。思わず、滝井さんを凝視して固まってしまう。


「あれ、琥太郎さん、どうしたんですか?」

「えっ、あっ、なんでもないです。ちょっと仕事の事を思い出して考えこんじゃいました。」

「ははは、琥太郎さんも社会人になってお仕事頑張ってるんですもんね。頑張り過ぎて今日は疲れちゃったんですか。」

「いえ、そういうわけじゃなくて、連休中に実家の方に帰省してたんですよ。それで、子供の頃にお世話になってた武道の道場に顔を出したんですけど、子供達の稽古なんかに一緒に参加させてもらってたら、筋肉痛で動けなくなっちゃいました。」

「ははははは。琥太郎さんは優しそうだから、子供達にも人気だったんでしょ。」


「「……あれっ、だけど滝井さんが妖って事は、今まで俺の封印の影響があったはずなんだけどなぁ……」」


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