63_リアル昇○拳
純粋な武術の実力では、美澪との間に大きな差がある事くらい琥太郎も理解している。とはいえ、こうも一方的に美澪に攻撃を決められ、転ばされてしまうと、どうにも気分が悪い。起き上がった琥太郎は、「気」による身体強化のレベルを引き上げつつ、美澪の動きに対応出来るように「気」の感覚も研ぎ澄ます。
この琥太郎の変化には美澪もすぐに気づいたようだ。体の砂を払いながら美澪の方を見た琥太郎と目が合うと、一瞬ニヤリと美澪が笑った。
琥太郎が構えた瞬間に、美澪が一直線に琥太郎に踏み込んできた。上段、中段、下段と打ち分けながらの連続の突きに加え、琥太郎の払い受けには、その動きに合わせて裏拳まで合わせてくる。
「くっそ。」
琥太郎が身体強化のレベルを上げたのに合わせるかのように、美澪もギアを一段上げてきた。これではジリ貧なので、琥太郎も更に身体強化レベルを上げて反撃する。美澪の中段突きを躱して、カウンターで下段から上段への2段蹴り。これをギリギリ躱した美澪に後ろ回し蹴りを繰り出すと、この組手で初めて美澪に攻撃が決まった。
倒れはしないものの、軽く後ろに飛ばされた美澪が再度ニヤリと笑うと、全身からドッと妖気を噴出して纏う。直後、姿が消えたかと見間違うような速度で琥太郎の正面に移動し、超速の連突きを繰り出してきた。琥太郎は一瞬視界から美澪の姿を見失うも、「気」の感覚で認識し、これをなんとか躱す。すると再び美澪が視界から消える。その直後に胴回し回転蹴りが降ってきた。これをギリギリ十字受けで受けた琥太郎が、低い姿勢で着地した美澪の側頭部へと廻し蹴りを繰り出す。美澪は更に低い姿勢になってこれを避けた。その直後、美澪の足元で爆発が起きたかのような衝撃が起こり、美澪の強い妖気が噴出した。
ドーンッ!
その瞬間に美澪の姿は消え、琥太郎はガラ空きになっている自身の顎の近くに、強烈な妖気を纏う美澪の拳の気配を感じ取った。美澪が自身の強力な妖気で最大限の身体強化をしつつ、ほぼ真上にある琥太郎の顎をめがけて、飛び上がるように突きを繰り出してきたのだ。まさに、格闘ゲームでお馴染みのリアル昇○拳だ。
「はぁっ!」
ダンッ!
間近に迫った美澪の拳を感じ取り、避けきれないと判断した琥太郎は、全身から強い「気」を発した。これにより、突きが決まる直前で美澪は身体ごと吹き飛ばされた。
もちろん、仮に美澪の今の突きが顎に入っても、「気」に守られている琥太郎にはたいしたダメージも無いだろう。それでも、本来であれば決定打になるはずの攻撃を決めさせるのには抵抗があったのだ。
琥太郎の「気」で吹き飛ばされた美澪が、空中で1回転しながら5m程離れた場所に着地した。
「喝っ!」
そこで、突然十兵衛爺ちゃんが琥太郎と美澪の間に入ってきた。
「何をしておるんじゃバカたれが! お主らがこんな狭い道場で「気」やら妖力やらを発して本気を出したんじゃ、道場が潰れてしまうじゃろ! それ以前に、子供達が持たんわっ。」
そう言って、琥太郎と美澪にそれぞれ拳骨を落とした。
横を見ると、子供達は道場の隅で膝をついて、脂汗を流しながら肩で息をしている。琥太郎の「気」の圧力や美澪の強い妖力に耐え切れなかったらしい。
すると、道場の入り口の結界が揺れて、琥太郎の幼馴染達4人が道場に駆け込んできた。
「おいっ、どうしたんだ!」
「道場の近くまできたら、道場からなんか凄え大きな音と振動がしたからびっくりしたぞ。」
「何が起きたの?!」
「大丈夫?」
「うわぁ、みんな驚かせてごめん。美澪と組手してたんだけど、ついついムキになっちゃってた。」
そう言って幼馴染に軽く頭を下げつつ、子供達の方を振り返る。
「みんなもごめん。大丈夫?」
「うっ、うん、なんとか平気…」
「私も大丈夫。だけど…」
「凄かった。巻き込まれて死ぬかと思った。」
直七の死ぬかと思った発言に、豆吉と小春も同意するように小さくうなずいている。
「武道の組手なのに、琥太郎が「気」を使いまくってきたのが悪い。」
美澪がちょっとブーたれている。
「だって、武術じゃあきらかに美澪の方が上なのに、容赦無いんだもん。」
「バカたれ! 2人ともちっとは反省せい!」
「ごめんなさい。」




