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59_突き

 美澪の始めの合図で十兵衛爺ちゃんと琥太郎の組手が始まった。

 爺ちゃんの稽古の組手では、爺ちゃんも妖気による身体強化などは行わずに、あくまでも武道の技術のみで攻撃してくる。

 琥太郎も昨日の子供達との組手同様、「気」の操作は自分が怪我をしない程度の最小限に抑えつつ、爺ちゃんに組手をしてもらう。


「ほれ、琥太郎、脇を開けたらだめじゃろう。」

「前のめりに力んで蹴るのでなく、反対の肩を後ろに引きながら、リラックスして蹴らにゃあ。」

「なんじゃその屁っ放り腰は。重心は常にヘソの下じゃ。」


 爺ちゃんが、都度アドバイスしてくれながら琥太郎の相手をしてくれる。

 アドバイスをくれながらとはいえ、時折飛んでくる攻撃はかなり鋭い。

 基本的には琥太郎に避けたり受けさせたりする前提で攻撃してくれているようだが、そのうちに爺ちゃんの鋭い突きが琥太郎の鳩尾にもろに入った。


「うぅっ」


 最小限とはいえ「気」による身体強化で防御しているため、琥太郎もそれですぐにダウンする事は無かった。しかしそれでも、今のはしっかりと威力が琥太郎の鳩尾に浸透して、突き刺さってくる感じの衝撃だった。


「「……防御にはある程度「気」を使ってるつもりなんだけど…、爺ちゃん凄いな…」」


 琥太郎が最低限の「気」の操作しか行っていないとはいえ、しっかりと「気」を感じ取ることは出来ているので、今の突きで爺ちゃんが妖力を使っていなかったのはわかる。もちろん爺ちゃんも妖なので、全身からほんの僅かに滲み出ている妖気は感じるものの、それは決して身体強化や攻撃手段として使われている妖気ではない。むしろそれよりも、琥太郎に刺さってきた爺ちゃんの拳の先からは、人間の「気」と同じ用な力を感じた。


「「あれって、中国武術なんかでいうところの「徑」と同じ感じっぽいかも…」」


 その後、琥太郎が十兵衛爺ちゃんに上手くコントロールされながらの組手となり、琥太郎の息が完全に上がってヨレヨレになったところで組手が終了となった。


「ふふふっ、琥太郎はもっとちゃんと素の身体も鍛えないと駄目だね。」

「確かにのう、お主はまだ若いのに、ちょっと息が上がるのが早いかもしれんのう。」


 両膝に手をついて、息も絶え絶えになっている琥太郎を見ながら、2人が笑っている。


「人間は社会人になると、なかなか運動なんてしないんだよ。これでも俺なんて、少しでも普段運動してるだけ、かなりマシな方だと思うよ。」


 武道の達人のような十兵衛爺ちゃんと琥太郎とでは、武術の実力に隔絶した大きな差がある。琥太郎が「気」を駆使してバリバリに身体強化した状態ならともかく、素の身体に近い状態で、爺ちゃんに上手くコントロールされながらの組手では、すぐに息が上がってしまうのも仕方ないだろう。しかしその後も息が落ち着くまで暫くは、十兵衛爺ちゃんと美澪のちょっと辛口批評を琥太郎が聞かされる羽目になってしまった。


「ねえ爺ちゃん、さっき組手中に爺ちゃんの中段突きでいいのが一発、俺の鳩尾に入ったでしょ。あれ、もうちょっと見てみたい。」


 ようやく息も落ち着いたところで、琥太郎が先ほど気になった爺ちゃんの突きを見せて欲しいとお願いしてみた。


「ほう、これか。」


 そう言って十兵衛爺ちゃんは、軽く構えてスッと前を見据えると、フゥと軽く息を吐いてから、何度か突きの動作をしてくれた。

 爺ちゃんが見せてくれた突きの動作は、老人とは思えないほど鋭い。更に琥太郎が感覚を研ぎ澄ませて観察すると、爺ちゃんが拳を突き出す瞬間に、地面に付いた足先から拳の先に向かって、妖気とは別の、人と変わらない「気」が鋭く流れていくのが感じられた。


「爺ちゃん、今度は実際にその突きを何発か受けてみたいんだけど、また俺の腹に打ってくれない?」

「ははははは、まあ琥太郎相手では仕方ないがのう…、これでも儂もそれなりに長いこと鍛錬を続けてきたんじゃぞ。それほど軽く、突きを腹に何発も打ってみて欲しいなどと言われてしまうと、ちょいとショックじゃわい。」

「うっ、なんかごめん、爺ちゃん。」

「よい、よい。お主は本当に無茶苦茶な人間の子供だったからのう、当時はいつもいつも儂も驚かされて楽しかったわい。その琥太郎が大きくなって帰ってきてくれてるのをあらためて感じられて嬉しいぞ。」


 爺ちゃんが笑顔でそう言って、2~3回づつグルグルと肩を回している。


「ありがとう。無理はしないで欲しいけど、出来れば手加減抜きの突きを見てみたい。」

「殴られる側から気遣われるとは…、本当に歳は取りたくないのう。ははははは。」


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