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57_お参り

「はははは…、分六、婚約者さんの前で何言ってんのよ。」


 皆から料理を褒められていた紬が笑って返している。

 美澪は、琥太郎と婚約しているといった事を、琥太郎がいない間もずっと皆に話していたらしい。琥太郎にとっては、結婚の約束はあくまでも幼かった頃の口約束であり、結婚なんて覚悟も何も出来ていない状況だ。美澪だけでなく周りからまで美澪の婚約者であるといった認識を持たれている事に対して、どうしてよいか戸惑いつつも、美澪が、自分がいない間も、こうしてずっと自分の事を思い続けてくれていたという事実に触れて、あらためて嬉しく感じる部分もあった。

  琥太郎が道場に顔を出した当初、琥太郎の事を懐疑的な目でみていた子供達も、琥太郎が酒呑童子に模擬戦で勝ったという話を聞いてからは琥太郎を見る目が変わっている。現在は琥太郎に対して畏怖の念を抱きつつも、その強さに惹かれてしまっているようだ。飲み会の最中入れ替わり立ち代わりずっと大人達に囲まれて楽しそうに飲んでいる琥太郎を遠巻きに見つつ、琥太郎が持ってきたお土産のお菓子を食べながら子供同士でずっと話していた。

 普段琥太郎の家ではお酒を飲まない美澪も、時折笑顔を見せながら幼馴染連中と飲んでいた。以前に会社の後輩の風音さんと一緒に居酒屋に行った時にも少し思ったが、美澪も子供っぽい容姿に反して、やはり妖らしく結構飲めるくちではあるようだ。

 結局飲み会は夜半過ぎに、十兵衛爺ちゃんから半ば強引に解散の掛け声がかかって終了となった。

 子供達は、夜の9時前には豆吉と紬が家まで送り届けてくれたらしい。


 皆で簡単に片づけをして解散となった後、十兵衛爺ちゃんの家に移動した琥太郎と美澪と爺ちゃんの3人だが、既に夜も遅いという事で、すぐに床につく事になった。しかし琥太郎は、日中の移動や夕方の稽古で汗をかいた上に、そのまま長時間の飲み会となっていたため、寝る前に外の湧き水で汗を流してくる事にした。タオルとボディソープと簡単な着替えを持つと、小さな虎の姿になって既に布団の上で丸まっている美澪と、隣の部屋の十兵衛爺ちゃんに一声かけて、琥太郎だけ一人再び外に出た。

 このあたりは山の麓という事もあってか、いたる所に湧き水がある。堰から1分ほど歩いた所にある小さな祠の階段の下にも、地元の人が野菜を洗ったりできるように桶を置いて湧き水が掛け流しになっている場所があった。階段の向かい側は、細い農道を挟んで段差のついた畑になっている。祠近くの小さな街燈の明かりを遮る木陰に入ってしまえば、山に隠れて月明かりも届かないため真っ暗だ。夜間は人も車もほとんど通らない場所なので、琥太郎は気にせず素っ裸で水をかぶると、ボディソープで簡単に全身洗って着替えを済ませた。


「ふぅ、さっぱりした。なんか久しぶりに結構酔ったな…」


 琥太郎も比較的お酒は強い方ではあるものの、夕方から深夜まで飲んでいたのでは、さすがに少し飲みすぎたようだ。

 一息つこうと祠の階段に腰掛ける。目の前の畑の先に広がる田んぼの向こう側には、君津市役所が見えていた。今回は立ち寄る予定は無いが、琥太郎の実家もそのあたりだ。君津に住んでいた頃、通学時や美澪達と遊んだ帰り道、毎日目にしていた市役所の建物に懐かしさを覚える。


「「……この睡蓮堰の里に帰ってこれて、またみんなにも会って話しも出来て、なんか本当に良かったなぁ…」」


 幼い頃は人間の友達がいなかった琥太郎にとって、この睡蓮堰の里の幼馴染達だけが、唯一子供の頃からの友人と呼べる存在だ。そんな彼らに何も伝える事が出来ないまま、封印を施されて疎遠になってしまっていた事を、琥太郎はとても心残りに感じていた。一部既に里を離れて会えなかった妖もいたが、幼い頃の友人達に今日こうして再び会って話せた事は、琥太郎にとっては特別に嬉しい事だった。


「「……十兵衛爺ちゃんの家に戻る前にこの祠の神様にも、ちゃんとお礼くらいしとくかな…」」


 琥太郎は階段から立ち上がって祠を見上げた。山の麓の斜面にある階段を10段ほど上った所に、狛犬のように左右に配置された一対の狐の像があり、その奥に小さな鳥居と祠が立っている。

 琥太郎は祠に向かって階段の1番下に立ち、神社の一般的な作法に習って二礼二拍手を行った。そのまま手を合わせようとしたところで、すぐ背後から突然小さな気配が向かって来るのに気が付く。ハッとして思わず振り返りそうになるが、直後にその小さな気配が神気を纏っている事に気がついて強引に踏みとどまった。


「「……んっ!」」


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