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56_いい奥さん

 ここで、美澪がボソッと放った一言に、道場にいた全員が驚愕の声をあげた。いつも飄々としている十兵衛爺ちゃんまで驚いた顔をしている。


「琥太郎、お前の能力が戻ったのって最近だろ? それでなんで酒呑童子なんて超大物に会ってんの?? しかも、何したら模擬戦になんかなんのよ。」


 そこで美澪が、歌舞伎町の花園組に行った時の事を説明した。


 美澪が到着した時には既に模擬戦が終わっていた事。

 琥太郎は無傷で、酒呑童子の酌威しゃっくいはボロボロになっていた事。

 花園組親分でぬらりひょんの曖然あいぜんとの会話の中で、酌威が負けを認めるような発言をしていた事。

 今度は美澪も模擬戦をさせてもらう約束(?)をしてきた事。


これには、道場にいる大人達だけでなく、子供達までもが身を乗り出して聞いている。


「マジかよ琥太郎?」

「う~ん、なんというか、まあ、そんな事もあったかなぁ。へへへ…」

「しかも、親分がぬらりひょんって、それ、伝説みたいな大親分だろ。」

「そっ、そこまでなの? 確かに有名って事位は知ってたけど。」


 さすがに日本最大の歓楽街を仕切っている組だけあって、妖達の感覚からしても組長の曖然や若頭の酌威は超大物妖だったらしい。

 唖然としながらも琥太郎の方に身を乗り出して聞いてくるみんなに、琥太郎も自分の封印のせいで周辺の妖に目をつけられていた事や、そのために花園組にお詫びに行ったら、何故か若頭の酌威と力試しって事になってしまった事、最後には帰ってきた曖然親分からも模擬戦に誘われた事などを説明した。


「それって、世間一般では殴り込みって言うんじゃねえの。」

「違うよ、違うってば。誓ってそんなんじゃありませんっ!」


 その後しばらくは、みんなから琥太郎への質問タイムとなった。しかし、昔話も混ざり、なかなか話が途切れなかった事もあって、十兵衛爺ちゃんの判断で夕方の稽古は終了となった。


「爺ちゃん、それじゃあこのままここで始めちゃっていいか?」

「そうじゃのぉ。積もる話もある事じゃし、今夜は皆でパーっといくか。」


 清吉が持ってきていた酒瓶を掲げて十兵衛爺ちゃんに尋ねると、爺ちゃんも笑顔でこの場の飲み会に同意していた。昔から十兵衛爺ちゃんも酒は好きだったので、これは当然といったところだろう。反対に、酒瓶を掲げて尋ねた清吉の見た目は美澪と同じくまだまだ10代前半から半ばに見えるので、こちらの方がちょっと違和感があるかもしれない。しかしまあ、妖も昔の日本と同じく15歳を過ぎれば大人扱いらしいし、実年齢は優に20歳を過ぎているので何も問題は無いのだろう。むしろ、酒好きが多い妖の世界では、特に飲酒の法律のようなものがあるわけでもなく、子供の頃からお酒を口にしている妖も多いらしい。普段お酒を飲まない美澪の方が珍しいのかもしれない。

 十兵衛爺ちゃんが飲み会に実質OKを出した途端に、床には一斉に酒瓶や食べ物が並べられた。琥太郎が来ているという事で、琥太郎の幼馴染の大人達はみんな、飲み会前提に酒や食料を持参してきていたようだ。

 琥太郎も、東京駅の八重洲口で買ってきていたお土産のビスケットと煎餅とお饅頭を十兵衛爺ちゃんに渡して、一緒にひろげてもらった。


「なんか凄いね。絶対こんなに食べきれないんじゃない?」

「みんな琥太郎が来てるって言ったら張り切っちゃって、ありったけ持ってきたんだよ。」

「私も清吉から琥太郎が戻ってきたって聞いて、大慌てでお料理してきたんだからね。」


 男連中が酒と乾き物ばかりを持ってきていたのに対して、さら蛇のつむぎは里芋の煮つけや南瓜のそぼろ煮、茸の炊き込みご飯のおにぎりなど、手作りの料理を多数用意してくれていた。


「えぇっ、これ、全部紬が作ってくれたの? めちゃめちゃ美味しそう。」

「美味しそうじゃなくて、紬の作った飯はマジで旨いぞ、琥太郎。」

「そうだぞ。琥太郎は長い事ここを離れてたから判らないだろうけど、紬はめちゃめちゃ料理上手になってっからな。」

「紬は、めちゃめちゃいい奥さんになりそうだから、琥太郎も狙うなら早めに動かないとだぞ。だけど、そしたら琥太郎もライバルだな。」

「それは駄目!」


 後ろで会話を聞いていた美澪が豆狸の分六ぶんろくの言葉を聞いて、すかさず軽い殺気を飛ばしてきた。


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