52_なんでもあり
十兵衛爺ちゃんの「始め」の掛け声とともに、直七が琥太郎に突進してきた。幼いながらに妖力による身体強化もそれなりに出来ている。
琥太郎が「気」の操作を駆使してしまえば勝負どころか組手の練習にすらならないだろう。そのため、琥太郎も「気」の操作は自分が怪我をしない程度の最小限の身体強化のみに抑えておく。とはいえ、「気」を感じる事はもちろん出来ているので、相手の攻撃や相手の防御の動きは「気」を感じながら対処可能だ。
突進して琥太郎の鳩尾に右手の突きを放ってきた直七の動きは、直七が身体強化を使っている事もあり非常に速い。並みの人間であれば対処するのは非常に難しいだろう。しかし、直七の「気」を感じ取れている琥太郎は「気」の感覚を元にしっかりと目で追う事が出来た。そして、放たれた直七の突きは琥太郎の左手で払われた。
右手の突きを払われた直七は、払われた動きに逆らわずに、すかさず左膝を琥太郎の右足をめがけて繰り出してきた。これを軽く足を上げて受け流すと、そのまま琥太郎は直七の軸足になっている右足を足払いで攻める。この足払いが決まり直七は地面に倒された。しかし、直七は綺麗に回転しながら受け身を取ると、そのまま流れるように立ち上がって構えていた。
ちなみに道場は、むき出しの地面になっているものの、細かい砂が敷き詰められているような感じになっている。そのため、投げ飛ばされても怪我はしにくい。
「くっそぉ~、琥太郎はやっぱり結構強ぇぞ。」
武道の技術を比較するのであれば、琥太郎と直七はほぼ互角か、むしろブランクの無い直七の方が上かもしれない。しかし、いかんせん身長差に伴う手足の長さの違いと体重差があるため、大人である琥太郎を相手にするのは直七にとって大きなハンデが伴う。
その後も琥太郎の手足を搔い潜りながら直七が琥太郎に攻撃を仕掛けるも決定打を与える事は出来ず、逆に何度か転ばされて琥太郎との組手は終了となった。
「ちきしょう! あともうちょっとだったのに。だけど、妖気の攻撃さえ出来れば俺でも勝てそうだぞ。」
美澪がそれを横で聞きながら、黙って笑っている。
続いて、豆吉と小春もそれぞれ琥太郎と組手を行った。
少し気弱そうで、おとなしめの印象を受ける豆吉だが、豆吉は足技が抜群に上手かった。琥太郎の重心移動に合わせて、タイミングよく足技をしかけてくる。これには琥太郎も何度も転ばされそうになった。
対して小春は武道があまり得意ではないようだった。型の動きは3人の中で一番綺麗に見えたが、組手になると型の動きを生かしきれないようで、琥太郎からの攻めに対して受け身になる事が多かった。針女という事で、本来の攻撃手段は通常は髪の毛だ。そのためか、手足を使う武道では能力を活かしにくいのかもしれない。
「じゃあ、せっかくだから今度はなんでも有りで琥太郎と勝負してみたら。」
「おう、それならきっと勝てるぞ!」
美澪が子供達にそう提案すると、即座に直七が食いついてきた。豆吉と小春は、どうしようといった感じで顔を見合わせている。
「もちろん、1人で挑んでも相手になんてならないだろうから、3人で一緒に勝負してもらいなさいよ。」
「はぁ?それなら俺たちが勝つに決まってんじゃん。」
「ほっほっほっほっほ。それは楽しそうじゃの。どうじゃ琥太郎、なんでもありでこやつらの相手をしてやってくれんかのぉ。」
「えっ、まぁ、いいですよ。」
「くそぉ、俺たち舐められてるぞ。」
1人でも勝負になると思っている様子の直七が憤っている。
「う~ん、さすがに3人でかかれば、なんとかなるんじゃないかなぁ。」
「美澪姉ちゃんは琥太郎は強いって言ってたけど、人間にしては強いって事なのかも。組手では勝てなかったけど、そんなにめちゃめちゃ強そうな感じはしなかったし。さすがに私達3人で攻めれば、負けないと思う。」
1人で勝負する事には躊躇いが見えた豆吉と小春も、3人一緒と聞いてやる気になってきたようだ。
「もしもあんた達が琥太郎に勝てたら、琥太郎に頼んで市街地でクレープ買ってきてあげる。ねぇ琥太郎、それくらいいいでしょ?」
「ははは、うん、まあいいよ。それくらい。勝ったらね。」
「「「マジで?!」」」
妖達は人間のお店で売っている食べ物をそれほど頻繁に食べる事が出来ない。甘いものが大好きな子供達は、クレープと聞いて完全に目の色が変わった。すぐに3人で小さく集まり、琥太郎との模擬戦に挑むための作戦会議を始めている。
「おっ、いたいた!」
すると突然入り口の結界が開かれて、昼間に別れた河童の清吉が入ってきた。更にその後ろには別の3人の妖が続いて入ってくる。
「「「おぉっ、本当に琥太郎がいた!」」」




