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48_睡蓮堰

 週末になり、9月の連休に突入した。土日祝日の3連休が2週続けてやってくる。そこで琥太郎は、最初の3連休を利用して、美澪とともに実家のある君津へと帰る事にした。帰るとは言っても、実家には立ち寄らずに、美澪の育ての親である十兵衛爺ちゃんの道場へと向かう予定だ。

 琥太郎が幼い頃、仲良くなった美澪に誘われて十兵衛爺ちゃんの道場へと顔を出すようになった。道場ではいつも、琥太郎とあまり歳の変わらなそうな、5~6人の妖の子供達が武道の稽古を行っていた。

 琥太郎が道場に初めて顔を出した際、そこにいた妖の子供達は突然やってきた人間の子供に驚いていた。中にはひょこひょこと入ってきた人間に対して嫌悪感を示す子もいた。そんな中で十兵衛爺ちゃんは、突然美澪が連れてきた人間の子供である琥太郎を見ても楽しそうに笑っていただけで、他の妖と同じように琥太郎を道場に受け入れてくれた。

 当初琥太郎に対して嫌悪感を示していた妖も、武道の技術は無くとも全ての技を「気」の操作で防御して、逆に投げ飛ばしてしまった琥太郎を見て、すぐに琥太郎の事を受け入れてくれるようになった。幼くとも、そこはやはり妖だ。強者に対してはどこか敬意を含んだ感情を自然と抱くようになるようだ。

 また、琥太郎も初めて体験する武道の稽古に対して、子供ながらになるべく「気」の操作を使わないようにしながら参加するようになっていった。




 東京駅から高速バスに乗ってしまえば、実家のある君津の街までは1時間程度だ。美澪とともに君津市役所近くの停留所で下車してから、実家とは逆方向の小糸川こいとがわ方面へと少し歩く。小糸川の橋を渡って更に少し進めば、市街地から抜けて田んぼが広がる風景へと変わった。


「うわぁ、こっちって本当に久しぶりに来たけど、なんだか懐かしいなぁ。」

「東京の生活も面白いけど、やっぱりここの方が空気が美味しい。」


 美澪も気持ち良さそうに両手を伸ばしていた。これまで長期間君津を離れる事が無かった美澪にとっても、1か月ぶりに帰る君津は嬉しいようだ。

 田んぼの広がる風景を見ながら、更に小糸川の支流沿いに進んでいくと、ちょっとした丘の麓に一面睡蓮に覆われた堰がある。この堰に面した僅かな平地が十兵衛爺ちゃんの道場になっている。平地のスペース自体は畳3~4畳程度しかないのだが、この狭い平地は妖気による結界で覆われていて、妖がこの平地の結界の中に入ると、中は20倍近い広さがある不思議空間だ。

 普通の人間はもちろんこの結界の中に入る事など出来ないのだが、「気」の操作が出来た琥太郎は、結界の妖気を操る事で問題なく結界内に入る事が出来ていた。更に、この平地の近くの丘の斜面にも妖気の結界で塞がれた横穴があり、そこが十兵衛爺ちゃんと美澪の家になっている。琥太郎が生まれるよりも前、ここの少し上流にダムが建設された。当時ダム湖に沈んでしまった地域に住んでいた十兵衛爺ちゃん達は下流にあったこの堰の周りに移り住んできたと言っていた。


 琥太郎達が堰のほとりまでやってくると、対岸の水面に顔だけ出している1匹の河童が見えた。向こうも琥太郎達を見ていたが、トポンッと頭を水に沈めたかと思うと、直後に琥太郎達の足元の水面から再び顔を出した。


「えっ、もしかして琥太郎?!」

「あっ、清吉せいきちか?」


 清吉は、琥太郎が十兵衛爺ちゃんの道場に顔を出していた頃に、一緒に道場で稽古していた河童だ。初めて琥太郎が道場にやってきた時に、人間である琥太郎が気に入らずにつっかかっていったりもした、ちょっとやんちゃな河童だった。もちろん、そのあとすぐに琥太郎に「気」の操作であしらわれて投げ飛ばされて、その後は逆に琥太郎と仲良くなり、よく一緒に遊んだりもした。


「えぇっ!琥太郎、お前、治ったのか?」

「治ったっていうか、まあ病気だったわけじゃないんだけど、こないだ施されてた封印が解けて、また昔みたいに見えるようになったんだよ。」

「へへへ。清吉、驚いたでしょ。」


 突然の再開に驚いている2人を見て、美澪が楽しそうに笑っている。


バシャッ

ブルブルブルッ


 水面から顔だけ出していた清吉が、水中からジャンプして琥太郎達の横に飛び出してきた。直後に全身の水を切るように体を震う。


「もうっ清吉、濡れちゃうでしょ!」

「おおっ、琥太郎、元気にしてたのか?」


 少し水がかかってしまった美澪が怒っている。

 琥太郎は昔の癖が残っていたようで、咄嗟に「気」の結界で清吉が飛ばした水滴をはじいて無事だったのだが、直後に清吉がバンバンと琥太郎の肩を濡れた手で懐かしそうに叩いてきたので、結局Tシャツの肩のあたりは濡れてしまった。


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