169_参った
ダッ!
ここで身体強化を施した琥太郎も、曖然親分へ向かい一気に踏み出した。
同時に、曖然親分から漏れ出した覇気を操作して、一瞬だけ曖然親分の動きを止める。
フンッ!
そして、一瞬動きの止まった曖然親分の肩を掴むと、曖然親分に密着させた手の平から自身の「気」を一気に曖然親分の体内へと流し込んだ。
「ふぐっ…」
すると曖然親分の動きが完全に止まった。
曖然親分の体に流し込んだ自身の「気」を使って、琥太郎が曖然親分の体を拘束したのだ。
そして身体強化を施した状態のまま、右拳を曖然親分の顔面へ向けて振り絞ると、ここで琥太郎も動きを止めた。
曖然親分を「気」の拘束により動けなくした状態のまま、まさに残心の構えをとった琥太郎が酌威の方を振り返った。
「やめっ!」
酌威の方を振り返った琥太郎と、動けずに固まった状態の曖然親分を見た酌威がここで勝負を止めた。
「ふぅ…」
酌威の「止め」の合図を聞いた琥太郎が、大きく息を吐いた。すると、ドスを構えた状態で固まっていた曖然親分も再び動けるようになり、ドスを下して鞘へと納めた。
「参った。完全に儂の負けじゃな。」
「勝負あり。」
勝負を止めてから、少しだけ状況を見守っていた酌威だが、曖然親分の様子を見て勝負ありの声をかけた。
「いやぁ、ここまでやるとはのぉ。酌威やエニシ、ムギやミックの話を聞いて、「気」の操作で戦っているのであれば勝機があるのではと思っていたのじゃがなぁ。完敗じゃったな。しかし、何度か儂の攻撃がお主の「気」の操作により弾かれていたようじゃが、儂もまだまだ未熟という事じゃな。心技ともにまだまだ鍛錬が必要という事じゃのう。」
「曖然親分、どうもありがとうございました。曖然親分のような戦い方をする相手は初めてでしたので、いろいろ勉強になりました。なんだか勝ちという事にさせてもらっちゃいましたけど、本当にギリギリでした。最初に姿を見えなくしている妖気に気が付いたのも、たまたま観戦していた流伽の視線がきっかけでしたし、今回は偶然というか運も良かった結果です。」
「なぁに、それがなくとも今日の感じでは、儂がお主に勝つのは難しかったじゃろう。」
「そういえば流伽って、最初に曖然親分が姿を消してた時にも、曖然親分の姿が見えてたの?」
「なんか霞んでるっていうか変な見え方にはなってたけど、一応見えてはいたよ。なんか琥太郎の様子がおかしいとは思って見てたんだけど、あの時、琥太郎には全然見えて無かったの?」
「うん、完全に姿が消えて見えなくなってた。だけど流伽にはあの状態でもちゃんと曖然親分が見えてたんだね。人や妖には見えなくても、霊には見えるって事なのかなぁ。」
「ふむ、やはりそうか…。気配や姿を消して家にお邪魔している時に、その家の先祖霊や動物霊が怪訝そうにこちらを見ているように感じた事が何度かあったのじゃが、やはり霊にあの術は効かんようじゃの。」
琥太郎が曖然親分と感想戦のような事を話していると、ムギとミックも少し離れたところで、呆れ顔の酌威と話をしていた。
「いやぁ、琥太郎兄さん、本当に親分にも勝っちまいましたね…」
「やっぱ兄さんはホンマもんの化け物っすね。」
「力押しが駄目で、親分みてえな「気」を抑えた技でも倒しきれねぇとなると、敵にまわしたら本当にやっかいな相手だな。」
「兄さんに勝てる妖なんているんっすかねぇ。」
「九尾や大嶽丸なんかも基本的には、強力な妖気を使った力押しって感じだからなぁ、それだとちっと分が悪いだろうな。あとは嵌め手、搦め手といった卑怯な戦い方をする連中が、仕込みを行った上で騙し討ちでもしかけたらわかんねえけどな。」