168_方向を転換
「はぁっ!」
琥太郎は、自分自身の「気」を強く発動して曖然親分のドスによる攻撃を弾いた。
しかし、曖然親分はドスを琥太郎に弾かれるのが判っていたかのように、弾かれた力に逆らわず体を回転させると、そのまま琥太郎へと後ろ蹴りを放ってきた。
スタッ
これに琥太郎は反応する事が出来なかったが、やはり曖然親分の微かに帯びている闘気に反応して、琥太郎の「気」の防御がその攻撃を弾いてくれた。それと同時に、先ほど琥太郎が放った追尾型の「気」弾3発がUターンして曖然親分に迫った。
ザシュッ ザシュッ ザシュッ
しかし、これを曖然親分は逆手に構えるドスで全て切り伏せてしまう。
ここで一旦仕切り直しのようになり、琥太郎と曖然親分は3mほど離れた距離で対峙した状態で動きを止めた。
「「……ふぅ…、これだけ「気」を抑えられた状態っていうのも本当に厄介だなぁ……」」
さすがに接近して打撃や剣撃を打ち合えば、曖然親分からも僅かながら闘気や殺気をうっすらと感じる事は出来る。しかし、それはあまりにも僅かな「気」なので、その「気」を使って相手をコントロールしたり攻撃したりするといった事まではとても出来なそうだ。
また、接近した状態であれば曖然親分の生気も感じる事は出来たので、先日綾乃さんのお店で流伽にちょっかいを出してきた暁次と猿次達にしたように、曖然親分の生気を直接操作して攻撃する事は可能かもしれない。しかし、それだとちょっと模擬戦の趣旨とは違うような感じもするので、それは最後の手段にしておきたい。
琥太郎がそんな事を考えていると、曖然親分が再び滑るように琥太郎の方へと踏み込んできた。琥太郎も「気」の防御を極限まで研ぎ澄ますとともに、自身の「気」で身体強化を限界まで上げる。そして曖然親分の剣撃を迎え撃とうと構えたところ、突然曖然親分の上腕から先がドスを含めて消えた。
「えっ?!」
直後に琥太郎の「気」の防御が反応し曖然親分のドスを弾いた。しかし、曖然親分のドスは琥太郎が構えた位置とは全く別の、琥太郎の膝付近を切りつけてきていた。
「やばっ、マジかよ?!」
更に曖然親分は、先ほど同様弾かれたドスの動きに逆らわずに体を反転させながら、琥太郎の足元へとそのまま入ってきた。そして、琥太郎に体をぶつけながら柔道の小内刈りのように足を絡めてきた。
琥太郎も身体強化と自身の「気」の操作で体を地面に固定してなんとかこれを凌ぐも、僅かにバランスを崩される。曖然親分はそこへゼロ距離からドスの柄で琥太郎の鳩尾へと突きを放ってきた。
「はあっ!」
琥太郎は全身から自身の「気」を発して曖然親分を吹き飛ばしてこの突きを防ぎつつ、曖然親分から再び距離をとった。
曖然親分の動きは、ドスによる剣撃とともに、空手や柔道、合気道などが組み合わされた武道の技術も混ぜられている。これにより、琥太郎は自身の攻撃の全ての力が流されて無効化されてしまうように感じていた。「気」を抑えて気配を消す技術だけでなく、武道の技も段違いに洗練されているのだ。
「「……これ、技でなんとかしようなんて絶対無理だわ……」」
不遜にも、多少は技の応酬をイメージしていた琥太郎だが、曖然親分に対してそんな事は無理だと悟り方向を転換する事にした。
「ふんっ!」
琥太郎が訓練場内に漂っている、妖気を含む様々な「気」を全て掴み掌握する。そして、それを一気に圧縮しながら曖然親分を包むようにぶつけて曖然親分ごと燃やしにかかる。
ボワッ!
曖然親分が爆発したかのように炎が上がる。
すると曖然親分は、ドスによる連撃で、まるで炎を切るかのように裂きながら琥太郎へと突進してきた。
しかし、炎を連撃で切り裂く曖然親分からは先ほどまでの「気」を極限まで抑え込んだような静かな攻撃と異なり、やや強い覇気が漏れ出した。琥太郎の力技を切り抜けるのに、曖然親分も極限まで「気」を抑え込んだ状態は維持出来なくなったようだ。