159_組み合わせ
先日花園組を訪れた際にも入った部屋の前に来ると、ミックが入り口のドアをノックして中に入った。
「親分、琥太郎兄さん達をお連れしました。」
ムギとミックに続いて部屋に入ると、一番奥の大きなデスクに曖然親分が、手前の応接セットに若頭の酌威さんとエニシさんが座っていた。部屋に入ってきた琥太郎を見たエニシさんは、今日も少し表情を強張らせていた。
「こんにちは。お久しぶりです。」
「おう琥太郎、ようやく来たな。あの後酌威からあらためてお主と酌威との模擬戦の様子を聞いてな、儂もお主とまた会えるのを楽しみにしとったのじゃよ。」
部屋に入った琥太郎が挨拶すると、奥に座った曖然親分がご機嫌な様子で琥太郎に話しかけてきた。
「ムギとミックから、あの後は道路に開いた穴の対応で大変だったという話を聞きました。酌威さんとの模擬戦のせいで、だいぶお手間をおかけしてしまったみたいですみません。」
「ははは…、それはもうよいよい。うちの酌威にも良い薬になったようでのう。お主と模擬戦を行ってからは随分と鍛錬に精が出ておるようで何よりじゃ。のう酌威。」
「へい…、親分にそう言われちまいますと…、まあ、あの結果じゃ何も言えないっすね。」
曖然親分から良い薬になったと言われた酌威が、少し気まずそうにしている。
「今日は変わったお嬢さんも連れておるようじゃが、彼女も模擬戦を希望しておるのか。」
「いえ、彼女は同居人の流伽です。流伽は模擬戦はせずに、観戦と応援の予定です。」
「流伽です。突然お邪魔してしまいすみません。邪魔にならないように気を付けますので、よろしくお願いします。」
「おうそうかそうか。可愛いお嬢さんは歓迎じゃよ、わははは…。何も遠慮なぞせんと観戦していけばよい。」
流伽が緊張した面持ちで挨拶をしたが、どうやら観戦のみの流伽も問題なく受け入れてもらえたようだ。
「ところで、模擬戦って事なんですが、組み合わせは誰と誰になるんでしょうか。」
琥太郎自身は曖然親分との模擬戦は避けられないだろうと思ってはいるが、まだ正式には何も言われていないので確認しておく。
「そうじゃのぉ、琥太郎はもちろん儂の相手をしてくれるかのう。それと、そっちのこないだ会ったお嬢ちゃんは実力がまだわからんのじゃが、まずはうちの若手の相手をしてもらえんじゃろうか。のうムギ、ミック。」
「ムギとミックが相手なら、美澪は2人同時で問題ないと思います。別にいいよね、美澪。」
「琥太郎が問題ないというなら大丈夫。それでいい。」
「ほほほ…、頼もしいお嬢ちゃんじゃのう。ではムギ、ミック、お主らもしっかりと揉んでもらうんじゃぞ。」
「へっ、へい。」
ムギとミックが親分の指示に頷いてはいるものの、判りやすく困った顔をしている。彼らはまだ美澪の戦闘を見た事がないと思うのだが、美澪にどんなイメージを持っているのだろう。
「では早速地下へ行くとするか。」
親分の一言により、ムギとミックが先導する形で琥太郎達3人が続く。その後ろから曖然親分と酌威さん、それにエニシさんが続いて地下へと移動する。
地下の訓練場へと入ると、そこは前回来た時とはなんとなく雰囲気が変わっていた。
「うわぁ…、これ、天井を塞いだだけじゃなくて、結界も強化したんですね。前回来た時よりもかなり強力になってそうですね。」
「ほう、見た目だけなら何も変わっておらんと思うのじゃが、琥太郎は結界の強度まで一目で見抜くか。本当に大した人間じゃのう。」
「込められている妖気を感じる事が出来るんで、なんとなく判る感じです。こないだもかなり凄い結界だと思ってはいたんですけど、今のこの結界は、込められている妖気の濃度が更に濃厚な感じがしますね。」
「またあんなに派手に表に大穴を開けられてしまったんではたまらんからのう。今のこの結界ならそう簡単には破れんと思ってはおるのじゃが、それでもあまり天井に派手な攻撃を当てないでくれると助かるかのう。」
琥太郎も前回天井に大穴を開けてしまった際は本気で焦ったので、曖然組長の言うとおり今回は天井に向けて相手の攻撃を弾く事はなるべく避けようと思った。