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157_新しい人生

 花園組の事務所の入り口でムギとミックに別れを告げた琥太郎達も帰路につく。ここからまた京王線や都営線の駅まで移動するのも面倒なので、帰りはタクシーを使ってしまう事にした。週末という事もあり、歌舞伎町の入り口にあるタクシー乗り場は既に列が出来ている。


「流伽も今日は一日、本当にありがとう。流伽のおかげで、全く知らない世界だったアートギャラリーなんて場所も知れたし、凄く楽しかったよ。今まで絵なんて特に興味も無かったんだけど、なんか結構いいもんだなって思っちゃった。」

「本当?! そんな風に感じてくれてるなら、琥太郎と一緒に来れて良かった! だけど私も今日は琥太郎のおかげで、全然知らない世界を見せてもらえて凄く良かったなぁ。妖のお店なんて私一人じゃ絶対に行く事なんて出来ないもん。」

「途中で、なんか変な人達(妖達?)は来ちゃったけどね。」

「うん。だけど、そのおかげって言ったら変だけど、今まで知らなかった琥太郎の凄い一面も見る事が出来たよ。それに、なんか私のために琥太郎があんなに怒ってくれて、最初はちょっと怖かったたけど、それ以上に凄く凄く凄く嬉しかったんだ。」

「う~ん、だけどあれは咄嗟にやり過ぎちゃったというか、綾乃さんにまでちょっと迷惑をかけちゃったのはよくなかったかもね。」

「大丈夫だよ。綾乃さんだって、それまで迷惑をかけられてた妖達を懲らしめる事が出来て喜んでたもん。」


 暁次ぎょうじ猿次えんじの件については、琥太郎も流伽に手を出された事で思わずカッとなってしまい、一瞬だけとはいえ綾乃さんまで動けなくしてしまった事を少し反省していた。


「それに、綾乃さんもムギさんもミックさんも、みんな凄くいい人達で、ムギさんとミックさんの突然の姐さん呼びには戸惑ったけど、なんだかいろいろ憎めなくて凄く楽しくて、綾乃さんは凄く優しくて、お料理も本当にびっくりする位とっても上手で美味しくて、今日一日なんだか本当に楽しいって思えたの。私、今までずっと部屋の中で誰とも話さずに一人で過ごしてたでしょ。生前から出不精でどちらかというと引き籠り気質だったから、別に一人で部屋の中で過ごしてても、それが辛いとかって感じたりはしなかったけど、今日琥太郎と一緒に外に出かけて、本当に久しぶりに新しい人っていうか妖さん達との素敵な出会いがあって、なんだか閉ざされてた世界が突然ぱぁって開けた感じ。もちろん、美澪の事だってとっても素敵な出会いだったって思ってるんだよ。既に死んじゃってる私が言うのはおかしいんだけど、なんだか新しい人生が始まったみたいな、そんな感じかも。それは全部ぜ~んぶ琥太郎のおかげなんだよ。だから琥太郎、本当にありがとう。」


 笑顔で琥太郎に礼を言っている流伽の目元には、うっすらと涙が浮かんでいた。

 付き合っていた彼氏に殺されて、その後は霊としてずっと一人きりで過ごしてきた流伽を思うと、琥太郎はなんだか少し切ない気持ちになってしまう。今こうして、妖達とはいえ他者との出会いを喜んでいる流伽の姿を見ながら、そんな流伽のささやかな喜びを守ってあげたいと、そう思わされる流伽の笑顔だった。


 その後タクシーで初台の部屋へ帰宅すると、美澪は相変わらずPCでゲームをやっていた。


「美澪ただいま。遅くなってごめん。」

「美澪、ご飯はちゃんと食べた?」

「うん。ナスと豚肉にゴマのタレがかかってたやつ、あれめちゃめちゃ美味しかった。流伽は料理の天才だと思う。」

「はははは、褒めてくれてどうもありがとう。そんなに喜んでもらえると作ったかいがあるなぁ。」


 今日は留守番の美澪のために、流伽が事前にご飯を作って冷蔵庫に入れてくれていたのだ。


「美澪、今日は花園組のムギとミックにも会えたからさ、美澪の模擬戦の事もあらためてお願いしといたよ。」

「本当?ありがとう。今日も昼間は自主練したし、私はいつでも準備万端だからね。」


トゥルルルル…


 美澪に模擬戦の件を伝えていると、琥太郎の携帯電話が鳴った。携帯電話の画面を見ると、なんと今話しをしていたミックからだ。


「もしもし、ミック…、うん…、うん、大丈夫だよ。うん…、わかった。じゃあ、午後1時ね。うん。じゃあ土曜日にね。」


 電話を切ると、美澪がゲームの手を止めて、琥太郎を凝視している。


「美澪、来週の土曜日に模擬戦が決まったよ」


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