156_何でも有り
「酌威さんの強さっていうのは、私も幾度となく噂で耳にしてるからねぇ。その酌威さんでも琥太郎君に敵わないとなると、琥太郎君に勝てる妖なんているのかしらねぇ…」
「そうなんっすよ。酌威の兄貴なんて俺がいうのもなんですけど、日本一強いって言われてもおかしくない位の存在だと思うんすよね。」
「それでうちの親分まで琥太郎兄さんに興味深々になっちゃってて、親分も琥太郎兄さんと模擬戦をしたがってるって訳なんすよ。」
「琥太郎って本当にそんなに凄かったんだ。いつも美澪から琥太郎は凄いって聞いてたけど、そこまで物凄い人だったなんて思わなかった。」
流伽が、ムギとミックと綾乃さんの会話を聞きながら、なんだか驚いた様子で琥太郎の顔を見ている。美澪の場合、戦闘関係の事に関しては事あるごとに無条件で琥太郎を褒めている。しかし、そもそも琥太郎大好きな美澪なので、そんな美澪の話しか聞いていなかった流伽にとっては、その凄さが伝わりにくかったのかもしれない。
その後、ムギとミックもビーフシチューとバゲット、更には綾乃さんが出してくれる様々なおつまみを次々つまみながら、結局ビールも5杯づつ飲んで事務所へと帰る事になった。ムギとミックはもっと飲みたそうにしていたが、さすがに泥酔した状態で暁次と猿次を事務所に連れ帰るのはまずいという事で、しぶしぶお会計をしていた。
琥太郎もお会計をしてもらおうとしたところ、今日はお代はいらないと綾乃さんに言われてしまった。先日、綾乃さんは関係無いとはいえ、一応知り合いでもある河童達が琥太郎に攻撃してしまった上に、綾乃さんも困っていた暁次と猿次を2人まとめて片づけてくれたという事で、むしろ今日のお代程度では全然お礼が足りないとの事だった。
「綾乃さん、じゃあ今日はご馳走になっちゃいますね。だけど次回からは普通にお支払いしますから、あんまりいろいろ気にしないでください。綾乃さんの料理、本当に美味しかったです。どうもご馳走様でした。」
「琥太郎君こそ遠慮しないでまた来てね。うちは琥太郎君に助けてもらったみたいなものなんだからさ。流伽ちゃんもいつだって大歓迎だからまた来てね。今日話したお料理のお手伝いの事も良かったら是非よろしくね。」
「はい。私も是非綾乃さんにお料理を教わりたいと思ってるので、近いうちにご連絡させてください。今日は本当にご馳走様でした。」
琥太郎が流伽と一緒に綾乃さんのお店「打垂髪」を出ると、外ではまだ歩けそうにない暁次と猿次をムギとミックが肩に担いでいるところだった。
「くっそぉ、こいつら、最後まで面倒かけやがって。重てぇんだよこの野郎。」
「こいつらを担いで帰るにはちょっと飲みすぎちまったなぁ。」
「俺も運ぶの手伝うよ。ふんっ!」
事務所まで一緒に付き合うと言っていた琥太郎が、担がれている暁次と猿次を見て軽く息を吐いた。
「おぉっ、急に軽くなった。」
「うわっ、これ、琥太郎兄さんが何かしてくれてるんっすか?」
「うん、こいつらの妖気を操作して軽く持ち上げてるんだけど…、さっきこいつらの妖気を奪い過ぎて妖気が希薄になっちゃってるから、ちゃんと持ち上げるにはちょっと操作しにくいなぁ。」
「いやいや兄さん、これなら十分っすよ。」
「マジで兄さん、何でも有りっすね。」
琥太郎の妖気操作により暁次と猿次が軽くなったおかげで、少々酔っ払い気味のムギとミックでも楽々と奴等を事務所まで運ぶ事が出来た。
「こいつら、まだまだかなり妖気が希薄な状態になってるからさ、もうしばらくはまともに動けないと思うけど、1~2日もすればある程度は普通に動けるようになるんじゃないかな。」
「いやぁ、本当兄さん助かりましたわ。」
「模擬戦の件も、親分にスケジュールを確認して早めに連絡しますね。」
「ありがとう。さっきも言ったけど、週末なら当面は一応スケジュールはあいてるからさ。決まったら電話してね。」
彼らとはお店で電話番号の交換をしたので今後の連絡も安心だ。ちなみに綾乃さんとも電話番号の交換をしておいたので、流伽の手伝いの件も連絡は問題ないだろう。