148_行ってみたいお店
その後、館長の百田さんからは、このギャラリーに関する話や現在展示してある作品に関する話を少し聞いて別れた。このギャラリーには、芸術好きな妖がたまに来る事はあるが、妖がわかる琥太郎や、霊である流伽のようなお客さんはほとんど見かけないとの事だ。そのせいか、帰り際には是非また遊びに来てくれと積極的に誘ってもらった。
「なんだか人が良さそうな館長さんだったね。」
「館長さんは妖だから、人が良いとは言わないんじゃない、フフフ…。」
「それもそうか、ははは…。だけど、流伽が薦めてくれたとおり、なんかいろんな展示があって結構楽しかった。館長さんもあんなに誘ってくれてたし、また来ようか。」
「うん。私もこのギャラリーは大好きだったから、また来たいな。」
琥太郎達はそこからまた電車に乗り、本日最後の目的地である3件目のギャラリーへと移動した。3件目は新宿三丁目駅から歌舞伎町方面へと少し歩いたところにある新宿目薬画廊というちょっと変わった名前のギャラリーだった。流伽の話では、絵は目に良いからという理由でそんな名前がついているとの事だ。
流伽に連れられて新宿目薬ギャラリーに到着すると、そこは琥太郎が通っている歌舞伎町のスポーツクラブ ギャラガーから歩いても5分ちょっとの場所だった。
「へぇ~、スポーツクラブからこんなに近くにこんなギャラリーがあるなんて知らなかったなぁ。」
「ふふふ、飲食店なんかと違って、ギャラリーは知らないとちょっと判りにくいかもね。」
このギャラリーもいくつかの部屋に別れていて、複数のアーチストの作品が展示してあった。琥太郎が受けた絵の印象では若い作家さん達のような感じがした。しかし、それを流伽に話すと流伽は、作家さんの年齢を当てるのって結構難しいかもとの事だった。
「「……この絵を描いた人が年配の人だったら結構衝撃だけどなぁ…」」
琥太郎はこのギャラリーでもうっすらと妖の妖気の残留を感じていた。しかし、前の2つのギャラリーと違いかなり薄い妖気なので、今日このギャラリー内には妖はいなそうだ。しかし、妖気が残留しているという事は、ここにも最近妖の出入りがあったのは間違いない。もしかすると芸術関係には妖が集まりやすかったりするのかもしれない。
この新宿目薬画廊でも複数の作家さんの作品が展示されていたが、どことなく近い感じの作風ではあった。琥太郎にはよくわからなかったのだが、何か共通のテーマを基に展示が構成されていたのだろう。
「流伽、今日はどうもありがとう。なんだか知らない世界を知れて面白かったよ。絵自体も想像していたよりずっと楽しめたなぁ。」
「琥太郎も楽しめたなら良かった。私も本当に久しぶりにギャラリー巡りなんて出来て良かった。展示作品が変わったらまた来たいな。」
「あんまり頻繁には難しいかもしれないけど、俺もタイミングさえ合えばまた流伽と来てみたい。一人で来るのもいいんだろうけど、ある程度絵の事が判ってる流伽が一緒にいてくれて、今日みたいにわからない事をいろいろと教えてもらえると、より楽しめるんだなって思ったんだ。」
絵は初心者でわからない事ばかりの琥太郎は、絵に詳しい流伽が一緒にいていろいろと解説してくれた事で、絵に対してより興味を持つ事が出来たし、間違いなく一人で来たよりも楽しめただろう。流伽には次回も気軽に同行を依頼したものの、結構贅沢な事なのかもしれないと思った。
「ところでこの後だけど、ちょっと行ってみたいお店があるんだけど一緒にいいかな。」
「うん、私は別に今日はもう行きたいところも無いから全然かまわないよ。」
「俺の結界が破れて流伽が見えるようになった日なんだけどさ、初めて流伽と美澪と3人で話をした後に、俺と美澪だけで夕飯を食べに出かけたでしょ。その帰り道に毛倡妓の妖の女性に会ったんだ。綾乃さんっていうんだけどね。綾乃さんは以前から時々見かける事があって、道ですれ違うとお互い挨拶位はしてたんだ。もちろん以前はその人が妖だなんて思ってなかったんだけどさ。それで、美澪と一緒に歩いていて綾乃さんと会った時に、初めて綾乃さんが妖だって気づいたんだ。そしたら、ちょうどそのタイミングで河童2匹に襲われたりなんかして、そこで初めて綾乃さんと話をしたんだけど、その綾乃さんがこのすぐ近くで妖相手のバーをやってるらしいんだ。その時にお店に来てって誘われてたんだけど、未だに顔を出した事がないから、ちょっと寄ってみようかと思うんだけどいいかな。」
「うん、全然かまわないよ。妖相手のバーなんて、いったいどんな感じなんだろう。私なんかが行っても大丈夫なのかなぁ。」
「人間の俺を誘ってくれてる位だし、全然問題無いんじゃない? むしろ、まだ生きてる人間である俺の方が違和感が大きいんじゃないかなぁ。」