145_球体関節人形
「あなたはいつもここに座っているの?」
「うん。私はここが好き。フフフフッ…。夜になったら絵を見るの。それからまたここに座って過ごすの。夜の暗闇と静寂も好き。フフフフッ…」
「私もここのギャラリー好きだったなぁ。ここのオーナーのセンスも好き。毎日素敵な絵に囲まれて過ごすのって憧れたなぁ。」
「今展示してる絵もいいよ。私は好き。フフフフッ…。2人とも楽しんできて。フフフフッ…」
女の子の人形にまたあとでねと告げて、琥太郎達は2階のギャラリーに進んだ。
周囲の壁に絵が飾ってあり、その下に絵のタイトルや販売価格らしき値段が表示されている。飾られている絵は鉛筆画と水彩画で、有名な西洋童話の不思議の国の広瀬的な世界観に、軽くエログロエッセンスが付加されているような作品だ。
「うわっ、絵って結構いい値段するんだね。」
「最初はそう感じちゃうよね。私も最初に値段を見た時はびっくりしたもん。だけど、例えばこの絵が10万円だけど、この絵が売れたら、そのうち3割から4割くらいはギャラリーの手数料になるでしょ。それから、絵が入ってるこの額だけど、これがおそらく3000円位かなぁ。これが油絵用とかちょっと装飾のある額なんかだとすぐに5000円を超えちゃうでしょ。それと、絵具だって、1色数百円から高いのだと1000円超えちゃうし、油彩の絵具ならもっと高額なんだよ。だから、この絵が10万円で売れたとしても、作家さんに入ってくるのは半分位になっちゃうと思う。数日かけて絵を描いて、こうしてギャラリー用の準備をしてなんて事を考えると、日給換算にしたら凄く安いと思うよ。そもそも、絵なんて毎日売れるようなものじゃないしね。」
なるほど。価格だけみると確かに高く感じてしまうが、こうして内訳を聞いてしまうとある程度値が張ってしまうのも仕方ない気がしてきた。
その後、ひととおり飾られている絵を見て回ってから、初台のギャラリーを後にした。帰りがけ、階段に座っていた女の子の人形と流伽が服についての話をしていたが、琥太郎にはさっぱりわからない話だった。流伽がまた来るねといって楽しそうに手を振って別れていたが、なんだか良い友達が出来たようで何よりだ。
「あの子、なんていう妖なんだろう。琥太郎わかる?」
「たぶん、あれは付喪神だね。本来は使い古された道具なんかに宿る妖。幼い頃に農具に宿ってる付喪神を見た事があったけど、同じような感じがしてたからね。人の姿や形をした物には霊や妖が宿りやすいっていうけど、あの人形は凄くリアルだったから、そういうのも宿りやすいんじゃないかなぁ。俺はどっちかというと、付喪神そのものよりも、あの人形の妙なリアルさの方がびっくりしちゃったかも。」
「あぁ、あのお人形さん素敵だったもんね。彼女にも言ったけど、生前に私があのギャラリーに行ってた時から、あのお人形さんは素敵だと思ってたんだよね。あれは球体関節人形って言うんだよ。球体関節人形専門の作家さんもたくさんいて、球体関節人形だけを集めた展示会なんかも結構あるかなぁ。だけど、琥太郎の話だと、そういう展示会なんか行ったら付喪神だらけだったりするのかなぁ。」
「ははは…、それって凄そうだね。だけど、付喪神が宿るにはその物が出来てからある程度の期間が必要だと思うから、新作みたいな出来立ての人形が集まってるだけなら、そこまで凄い事にはならないと思うよ。だけど、なんかその球体関節人形っていうのにはちょっと興味が沸いたかも。」
それから琥太郎達は電車で移動し、四谷三丁目駅まで移動する。そこから10分程歩くと、本日2件目のギャラリー「アートビーマイベイビーセンター」に到着した。
「琥太郎、すぐにギャラリーを見てまわる?それとも、軽くお茶でも飲んで一休みしてからにする?」
このギャラリーも1F部分がカフェになっていた。といっても、1件目のギャラリーと比べるとカフェも建物も数段大きい。入り口の感じもちょっと美術館っぽい感じがする。
「軽くお茶してから見てまわろうか。流伽、甘いものでも食べる?」
「うん、ケーキ食べたい!」