139_前向き
「えっ、咲蔵大丈夫?危なくない??」
琥太郎がさすがに心配して尋ねた。風音さんもちょっとおどろいた顔をしている。
「あっ、もちろん僕が直接受けるんじゃないよ。こないだ琥太郎の攻撃を受けてみた時みたいに、僕が張った結界が耐えられるか試してみたいだけだよ。僕は怖いし危ないから、離れたところで見てるからね。」
「うん、私も咲蔵の結界で試したい。」
「こないだは琥太郎にあっさり破られちゃったから、あれから僕もちょっと練習したんだよ。今日はこないだよりも、もっと本気を出して強い結界にするからね。」
咲蔵の挑戦を受ける事になり、美澪はグルグルと軽く肩をまわしている。
琥太郎と一緒に道路脇に立っていた咲蔵が、道路の方へと歩いて出ていった。そして、ひとつ大きく深呼吸したかと思うと、道路上に自分の身長位の大きさの妖気の結界の壁を造る。前回と同じく、中央部分がドーム状に前に膨らんでいる。更に今回は、結界を立ち上げてからも、そのまま妖気を結界に注ぎ続けていた。
「ふぅ~…。よし、こないだよりも、もうちょっと強くなってるはず。美澪はこれ、破れそう?」
「うん、破る。」
美澪はそう言って咲蔵の張った結界の前へ移動すると、中段突きの構えをとった。
咲蔵が張った結界は妖気をより多く注ぎ込んだ事で、先日琥太郎が攻撃した時よりも更に強化されているようだ。
「ふぅ~~~、ふんっ!」
大きく息を吐いた直後、美澪の足の裏が僅かに光る。そこで発生した徑が丹田で圧縮された妖気と混ざり、美澪の拳とともに
咲蔵の結界へと打ち出された。
ドゴォッ!
美澪の打ち出した拳が、ドーム状に膨らんだ結界の真ん中に突き刺さる。そして、突き抜けた拳から打ち出された妖気と徑のトルネードが咲蔵の結界の背後へ大きく噴出した。
美澪がその拳を腰の位置へと戻すと、咲蔵の結界には美澪の拳よりも一回り大きな穴が開いていた。それを見た美澪が、穴の開いた咲蔵の結界へ、軽く爪の斬撃を放った。
ザシュッ!
バリンッ
すると、穴が開いてもまだ残っていた咲蔵の結界があっさりと割れて崩れてしまった。美澪の突きで穴を開けられた結界は、既にその時点で強度を失い、結界としての機能を失っていたのだろう。
「えぇ~!、美澪にも破られた?!」
破られた結界を見て、咲蔵が大きなショックを受けている。
咲蔵の結界を文字通り粉々に破壊した美澪が、残心をとってからこちらを振り返った。
「へへへっ」
笑顔を見せる美澪は、どこか誇らしげだ。
「う~ん、咲蔵の張った結界もかなり強力そうだったけど、やっぱり美澪の突きの破壊力というか突破力みたいなのは凄いね。攻撃範囲が狭い代わりに、ピンポイントで打ち抜く威力は絶大だよね。」
「うぅっ、なんかショック。倉庫を覆うような大きな結界よりも、サイズが小さい分強度も強いはずなのに…。琥太郎だけじゃなくて、美澪にまでこんなにあっさり破られちゃうなんて、蔵ぼっことして蔵を守ってるなんて言えなくなっちゃうよ。」
「咲蔵の結界は十分強力だと思うよ。俺が言うのもなんだけど…。美澪のさっきの突きだって、普通の妖じゃあんなに強い攻撃なんて持ってないはずだよ。」
「僕、結界には結構自信を持ってたんだ。だけど、僕の結界なんて、まだまだって事だったんだね。もう十分かななんて思って最近は結界を強化する練習もしてなかったけど、またこれから練習する事にする。今よりももっと強い結界を張れるように頑張るから、琥太郎達もまた来てね。」
美澪に結界を破られて落ちこんでいた咲蔵だが、なんだかとても前向きになってくれている。まあこれはこれで良かったのだろう。