132_お礼
「琥太郎、今日はどうもありがとう。私、長いこと外に出るのがちょっと怖くて、この部屋の中ですらほとんどの時間をずっと押し入れの中で過ごしてたの。だけど、琥太郎に出会って、琥太郎が私の事を見えるようになってからは、このあいだも一緒に買い物に行けたし、今日はこうしてこんなに長い時間みんなでご飯を食べに外出したり出来て、なんだか今の自分が凄く変わってきたのを感じるんだ。美澪だって、最初は喧嘩しちゃったけど、今では私の事を受け入れてくれてる感じがするし、ちょっとだけ友達って感じにも近づけてきた気がする。う~ん、、友達っていうよりは妹って感じの方が近いのかな。いずれにしても、それって私が前向きな気持ちになれてるんだと思うし、これって私にとって凄くいい事だと思うの。そして、それは全部、私を拒絶せずに受け入れてくれただけでなく、こんなに普通に接してくれてる琥太郎のおかげ。琥太郎、本当にどうもありがとう。」
流伽にあらためてこんな風にお礼を言われると、琥太郎も戸惑ってしまう。
「いや、別にそんな、何も特別な事なんでしてないよ。それよりも、いつも美味しいご飯を作ってくれて、お掃除までしてくれる流伽にはこちらこそ感謝しかないよ。俺、流伽の料理大好きだし。」
「琥太郎にそう言ってもらえると私嬉しいな。琥太郎に出会えてなかったら、私はどんどん暗く沈んでいって、いつか悪霊になっちゃってたかも。」
「ははは、それはヤバいね。だけど、もしもこれから先、一人で外出するようになったとしても、外に出る時は気を付けてね。流伽は霊だから、住職とか神主とか陰陽師みたいな人達に会っちゃったりしたら祓われちゃうかもしれないからさ。今日だってカリー様が近づいてきた時は俺、本当に焦ったもん。」
「ありがとう。琥太郎は本当に優しいね。これからも琥太郎達と一緒にいられるように気を付けるね。」
霊である流伽にとって、本来であればきちんと成仏出来た方が良いのかもしれない。しかし、本人が今それを望んでいないのであれば、琥太郎も流伽に今すぐ成仏して欲しいなんて思えない。まして、流伽が強制的に祓われてしまうなんて絶対に嫌だ。
流伽とそんな話をしている間に、眠そうにしていたため先にシャワーを浴びてもらっていた美澪がシャワーから出てきた。
「じゃあ、俺もシャワー浴びて寝るね。」
「うん、私も押し入れに戻るね。おやすみなさい。美澪もおやすみ。」
「ん。おやすみ。」
琥太郎がシャワーを浴び終えてベッドに行くと、美澪は小さな虎の姿になり、丸くなって既に眠っていた。その隣に琥太郎も潜り込む。片手で美澪のフカフカの背中を撫でながら目を閉じると、美澪に再会し、流伽に出会ってからの生活が瞼の裏に浮かんできた。
「「……なんだか連日、いろいろ慌ただしくはなったけど、これも悪くないかな…。というか俺、今のこの生活が好きだわ。美澪と流伽に感謝すべきなのは、きっと俺の方なんだよね…」」
そんな事を思っているうちに、連日盛沢山のスケジュールに疲れていた琥太郎も、すぐに寝てしまった。
翌朝会社に行くと、風音さんが既に出社していた。
今夜は美澪と風音さんが模擬戦をする約束になっている。
「琥太郎先輩おはようございます。今日は宜しくお願いします。」
「風音さんおはよう。美澪は終業時間に合わせて会社前に来るって。俺も2人の模擬戦を見るのがちょっと楽しみになってきちゃってたんだ。こちらこそ宜しくね。」
「私もいろいろと出来る事を増やしてきたんですよ。だから、今の私が美澪を相手にどこまで出来るのか、私自身も楽しみにしてるんです。」
「まあ、まずは仕事を片付けちゃわなきゃだね。」
「そうですね。私も今日は残業にならないように頑張ります。」
風音さんとそんな会話を交わしていたのだが、2人とも結局30分程残業になってしまった。
琥太郎達が仕事を終えて一緒に会社を出ると、待っているはずの美澪が会社の前に見当たらなかった。
「あれっ、美澪どうしたんだろう。」