131_ざくざくスパイスふりかけ
「俺は子供の頃に、何度か見かけた事があった位かなぁ。」
「私も君津にいた頃に、たまに見かけてた。話した事はないけど。」
「えぇ~っ、神様ってそんなに普通にいるもんなんだね。私は初めてだからびっくりしたよ。」
「いや、俺も見かけた事はあっても、話しかけられたりなんかしたのは初めてだから、めちゃめちゃびっくりしたよ。それに、妖の美澪は平気かなと思ったけど、霊である流伽に関しては祓われたり成仏させられたりしちゃうんじゃないかと思ってビクビクしてたよ。」
「神様が近づいてきた時に、琥太郎は私の事を守ってくれようとしたでしょ。あれ、なんか嬉しかった。」
流伽は、琥太郎が咄嗟に「気」の操作で守ろうとしてくれた事に気が付いていたらしい。
「カリー様がこのお店に加護を与えてるって言ってたけど、ちゃんとお参りしてご利益がある事もあるんだね。神様なんて別に何もしてくれないと思ってた。」
「う~ん、まあ、たまたまなんじゃない。特にカリー様の場合はお供え物だけじゃなくて、ここのお店の料理も勝手に食べちゃってるみたいだし。持ちつ持たれつって感じなのかも。」
「ははは、流伽も罰当たりな事言うんだね。」
「だって、生前は神様なんて信じて無かったもん。」
その後、3人であらためて楽しく料理を食べて過ごした。
琥太郎は普段は基本的にシーフードか肉の入ったカレーしか頼んだ事が無かったが、神様がくれた豆カレーも確かになかなか美味しかった。それと、インドカレーと一緒にらっきょうを食べたのは始めただったが、これも悪くない。琥太郎がもともとカレーの付け合わせのらっきょうが好きだったという事もあるかもしれないが、さすがカレーの神様は判っていらっしゃるという感じがした。
食事を終えてお店を出ると、部屋へ帰る前にすぐ近くのコンビニへと3人で立ち寄った。
「カリー様からいろいろいただいちゃったし、お礼にお供えをして帰ろうと思うんだ。」
琥太郎はそう言って、コンビニのレトルトカレーの置いてある棚へと向かった。そこで琥太郎が手にしたのはカレーではなく、その隣に置いてあったカレー用のざくざくスパイスふりかけだ。
「これけっこう美味しいんだよね。レトルトカレーを食べる時にこれかけると、簡単な味変みたいな感じにもなるし、カリー様も気に入るんじゃないかと思うんだ。」
「えっ、私も食べてみたい。」
「じゃあ、カリー様の分と自宅用に2個買って帰ろう。」
更に3人分のアイスを選んでコンビニを出ると、再び1本裏手の通りに戻ってカリー様の祠へと向かった。
「カリー様、先ほどは豆カレー…じゃなくて、豆カリーとらっきょうまでいただきありがとうございました。カリー様の言うとおり、豆カリーもとっても美味しかったです。それと、インドカリーにもらっきょうが合うというのは新たな発見でした。それで、このふりかけもカリーに合うと思いますので、どうぞお試しください。」
祠でざくざくスパイスふりかけをお供えすると、3人で祠に向かって手を合わせてからあらためて帰路についた。
コンビニで買ったアイスを食べながら、裏通りを3人で歩く。
「スパイシーなものを食べた後のアイスって美味しいよね。」
横並びの3人の真ん中で少し前を歩く流伽が、そう言って楽しそうに後ろを振り返った。
「私はまだ舌がヒリヒリしてる。バニラアイスが美味し気持ちいい。だけど、あのチキンはまた食べに行きたい。」
辛さに若干苦戦していた美澪だが、インポッシブルのタンドリーチキンは気に入ったようだ。
「フィッシュディッカっていう魚のグリルもあったけど、美澪は魚よりチキンの方が好きなの?」
「んっ琥太郎、それって、私が猫っぽいのに魚じゃないのかって思ったんでしょ。私は虎なの! 」
琥太郎が美澪に尋ねると、美澪が憤慨して答えていた。琥太郎がふと思った疑問を、美澪には完全に見抜かれていた。
「だけど、魚のやつも美味しかった。虎だって魚を食べるんだからね。」
「ふふふ、美澪は可愛いから猫みたいなイメージになっちゃうのも仕方ないよ。それに、女の子なんだからその方がいいよ。」
流伽にそう言われても、美澪はまだ少し憤慨しているようだ。
3人でそんなたわいもない話をしながら帰宅すると、流伽がちょっと神妙な顔をして琥太郎の傍にやってきた。