130_カリー
神様は、口をモグモグさせながら、そのまま眷属の狐を連れて奥の厨房へと行ってしまった。
突然の事に、まだドキドキしながら3人で顔を見合わせていると、厨房から再び神様が出てきた。今度は、なんだか両手にいろいろと持っている。そして、再び琥太郎達のテーブルへとやってきた。
「どのカリーも美味しいんだけどね、僕はこの豆のカリーが一番好きなんだな。はい、これあげる。」
神様がそう言って、豆カレーの入ったカレー皿を琥太郎達のテーブルに置いた。
不思議な事に、神様がお皿を持っている間は、神様同様に他の人達からはお皿なども見えなくなっているようだ。
「これもいる?」
更に神様はそう言うと小さな小皿を出してきた。中には”らっきょう”が入っている。
「あっ、どうもありがとうございます。うわっ、らっきょう! 嬉しいです!」
とにかく流伽と美澪を守らなければと思っていた琥太郎が、神様にお礼を述べる。どうやらこの神様は、今すぐに流伽や美澪をどうにかしようという事は無さそうだ。それと、何より琥太郎はカレーの付け合わせの”らっきょう”が好きだったので、思わずこれには喜んでしまった。
ここから更に琥太郎が、お礼を述べた流れで神様へ話しかけてみた。
「神様はカレーの神様なんですか?」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど、カリーの神様と呼んでもらえたらそれは嬉しいかな。」
「カレーではなくてカリーなんですね。じゃあカリー様ですね。」
「おっ、カリー様か。カリー様いいね。うん、じゃあ今日からカリー様って事にする。」
なんとも軽いノリで呼び名が決まってしまった。
「だけどカリー様、この豆カレーって、このお店のカレーですよね? 僕等が勝手にもらっちゃっていいんですか。」
「う~ん、たぶん大丈夫、大丈夫。」
「えっ、いや、たぶんって…」
「このお店のインドの人達って、毎日僕の祠に熱心にお参りに来てくれて、いつもお供えまでくれるんだよね。だから僕もこのお店には結構加護を与えてるの。だから、ちょっとカレーが減る位なら大丈夫大丈夫。」
なんだか、あきらかに盗み食いといった感じではあるものの、神様の言う事なので琥太郎達も有難くいただく事にした。
「それにしても奇妙なメンバーだね。僕の事がはっきりと見えてそうな君だって結構珍しいし。」
「はい。水虎の彼女は幼馴染で、霊の彼女は僕等と一緒に住んでる同居人なんです。あの~、こんな事を聞くのもなんなんですけど、彼女たちを祓ったりなんかしないですよね。」
「ははは、そんな事しないしない。邪悪な感情を持ってたりしたら、そういう事も必要なのかもしれないけど、とってもいい子みたいじゃない。そんな子達をわざわざ祓ったりなんてしないよ。それよりも、このお店は僕が加護を与えて贔屓にしてるお店だから、よかったらみんなまた来てあげてね。ここの料理は美味しいしね。それじゃあね~」
そう言って神様は手を振りながら、眷属の狐を引き連れてお店から出ていってしまった。反対の手には2種類のカレーを持っていたようだ。もちろん入り口のドアは閉まったまますり抜けて出ていったのだが、他のお客さん達は、神様の往来があった事にはまったく気づいていない様子だ。
「びっくりしたなぁ。」
「はぁ…、私、神様って始めて見た。」
「なんか変な神様。」
流伽もかなり緊張していたようで、大きく深呼吸している。
美澪はあまり気にしていない様子で、いつものとおり飄々としていた。
「琥太郎と美澪って、今までにも神様を見た事あるの?」
どうやら流伽は、あまり驚いた様子のない美澪を見て、それにも驚いているようだ。