129_インドの猫はカレーが好き
美澪はひたすらに肉が待ち遠しいようだ。
パパドを食べながら待っていると、間もなく続々と料理が運ばれてきた。すぐにテーブルの上が料理の皿でいっぱいになる。
美澪は、早速タンドリーチキンに手を伸ばしている。
流伽は食べたいと言っていたカレーを皿に取り、ナンと一緒に食べていた。
「フン~、美味しい。けど辛い。けど美味しい。」
タンドリーチキンにかぶりついている美澪が、辛さで涙目になっている。琥太郎もタンドリーチキンを食べているが、辛いといえば辛いがそこまで無茶な辛さではない。美澪はあまり辛さへの耐性が無さそうだ。
これは余談だが、猫科だから辛さに弱いという事はないようだ。というのは、以前に別のカレー屋さんのインド人が、インドの猫はカレーが好きだと言っていた。
更にネットニュースでも以前に見かけたのだが、犬や猫など人間に飼われてきた動物は、飼っている人間が食べているものをエサとして与えられるので、その食べ物が好物として定着するらしい。日本では、肉を好んで食べるようになる以前から魚が食べられていたため、日本の猫の好物は魚という事になっているそうだ。そして、そのネットニュースでもインドの猫はカレーが好きだと書かれていた。
インド国内で調理されるカレーは日本のインド料理屋さんのそれよりも圧倒的に辛いらしい。しかし、インドの猫はそれを喜んで食べるそうだ。
先述のインド人が帰国した際に、日本では目にする事が無いくらいの超激辛魚料理を自宅で調理していたところ、窓から入ってきた野良猫がその激辛の魚を盗んで食べてしまったと話していた。そのインド人が言うには、インドの猫は日本人よりも圧倒的に辛さに強いという事だ。
(これを否定していたインド人もいたので、どこまでが本当なのかはよくわかりません…。ちなみに、否定していたインド人が言っていたインドの猫の好物は、牛乳かけご飯でした。)
3人でいろいろな料理に手を伸ばしていると、突然お店の入り口から強い神気を感じた。そちらに目を向けると、小さな老人の神様がフワフワと浮きながら店内に入ってきていた。
琥太郎の正面に座っている2人ももちろんそれに気づいたようで、神様の方を見て固まっている。
身長は100cm位。
白装束を着て、地面からは30cm程浮いている。
見た目の年齢は、人間でいえば80歳位にはなるだろうか。
頭はツルツルに禿げ上がっているが、チョビ髭状の口髭とヤギのような顎髭が生えている。
顔は穏やかで、好々爺といった感じだ。
よく見ると、神様の左手にはナンが握られている。
「「……まずいな。妖である美澪はまだしも、霊である流伽に関しては祓われてしまうかもしれないし…」」
店の入り口から奥へと続く通路は、両サイドのテーブルの間に1本だけだ。通路に背を向けて座っている琥太郎の真後ろをフワフワと浮きながら奥へと進む神様が通過する。神様の後ろには眷属の狐も1匹ついてきていた。
琥太郎の真後ろを通過したところで、神様がふと立ち止まった。その目は、琥太郎の正面に座る美澪と流伽を見ている。
「あれれ、珍しいお客さんだね。フンフ~ン♪」
神様が琥太郎達のテーブルの横へと入ってきて、流伽の方へと近づく。
琥太郎がマズいと思い、流伽に「気」の結界を張ろうとしたところ、神様は流伽へとではなくテーブルへと手を伸ばしてきた。
「そうそう、これ、本当美味しいよね。」
神様はそう言いながら、ミックスグリルに乗っていたフィッシュディッカを手に取って食べた。
「「……あっ、俺もそれ一番好きなのに! っていうか、神様につまみ食いされた?…」」