128_カレー屋さん
流伽は霊なので、外を出歩く事自体が良い事なのかどうかはよくわからない。むやみに出歩いて、うっかり祓われてしまったりするのも心配だ。しかし流伽のメンタル面を考えれば、部屋にずっと引きこもって、外に出たくないと考えてしまう状況よりは健全で良い気がする。
「街を歩いてると妖を見かける事は結構あるんだけど、霊ってほとんど見かけないんだよね。世の中に霊自体があんまりいないのかなぁ。」
「う~ん、きっとそれなりに人数はいるんじゃないかと思うよ。守護霊みたいな人達は、普段は現世ではなく、いわゆる霊界って場所にいるみたいだし、恨みとか怨念をたくさん抱えた悪霊的な人たちは、あんまり目立つ所にいたらすぐに祓われちゃうから、人目につかない場所にいるだろうからね。それに素直に成仏せずに霊になるような人って、気持ちの切り替えが苦手な人たちだと思うんだよね。そういう人たちって、私を含めてどちらかというと陰キャで引きこもり体質な人が多いと思うんだ。そんな人達だから、霊になっても部屋の中とか、狭くて目立たない場所からあんまり出てこないんじゃないかな。」
「なるほど。なんだか腑に落ちた感じ。」
流伽から霊についての話を聞きながら、山手通りの清水橋交差点を渡り一本裏の路地へと入った。
かなり狭い路地だが、都心に近いという事もあり、それなりに人や車の通りはある。
しばらくそのまま進むと、目的地のカレー屋さん"インポッシブル"のすぐ手前に小さな祠がある。祠の前を通り過ぎる時にふと祠の方へ目を向けると、そこには小さな狐の置物と一緒に、お供えとしてナンが置いてあった。
「今から行くカレー屋さんのインポッシブルに前に行った時にお店の人が言ってたんだけど、この祠は地元の神様だからって事で、いつもこの祠にきちんとお祈りしてるんだって。お店の人はヒンズー教徒だって言ってたけど、ヒンズー教も多神教だから、日本の地元の神様にお祈りする事自体は問題ないらしいんだよね。だから、ここにはいつもインポッシブルの人がお供えしたナンがあるんだよ。」
「へぇ~、なんだかいい人達っぽいね。だけど、日本の神様のお供えがいつもナンっていうのも、なんだかちょっと面白いかも。まあ、日本人はカレー好きが多いから、日本の神様もきっとカレーは好きかもね。」
祠を通り過ぎて15m程で、すぐにインポッシブルに到着した。中に入ると、入り口横にあるレジの奥にヒンズー教の神棚のようなものがあった。お店の人に名前を告げると、すぐに4人がけのテーブルへと通された。
今まで美澪と外で食事をする際は、いつも美澪は見えていない前提で気を使いながら食事していたので、こうして美澪を含めて一緒に普通に席にとおしてもらえるのがなんだか新鮮だ。
「私までお店の人に案内されるのが不思議な感じ。」
「俺も今それを思ってた。なんだか新鮮だし、嬉しいね。」
琥太郎と美澪のそんな会話を聞きながら、流伽もニコニコしている。
席について3人でメニューを見ていると、久しぶりに外食に訪れた流伽が興奮している。
「う~ん、美味しそうなのばっかりで悩むなぁ。これも食べたいし、これも、これも…。そんなに食べられないけどどうしよう。」
「ははは、久しぶりなんだし、いいよ。ちょっと多めに頼んじゃおうよ。それに、頼みきれなければまた来ればいいじゃん。」
美澪は、どちらかというとカレーよりもタンドリー料理の肉類に惹かれているようだ。
いろいろと悩んだ挙句注文したのは、
カレー2種類
普通のナン
チーズナン
ガーリックライス
青菜炒め
モモ(小籠包みたいなやつ)
タンドリーのミックスグリル
単品タンドリーチキン、
それと、それぞれドリンクを注文した。
「結構頼んじゃったね。全部食べきれるかなぁ。」
「ははは、頑張ってたべなきゃだね。」
すると、すぐにサービスのパパドというお煎餅みたいなのが出てきた。バリバリと齧ると、薄くした南部せんべいのようで美味しい。
「これ食べてたら、余計にお腹がすいてきた。」