120_人の事に詳しい
その瞬間、美澪の全身から爆発するかのように炎が噴き出した。
それでも美澪の放った突きは止まらずに、琥太郎の顔面を捉えたかに見えた。しかし、琥太郎の「気」の防御によってそれも弾かれて琥太郎はノーダメージだ。
「はぁっ!」
直後に、琥太郎が全身から強い「気」を発して美澪を吹き飛ばし距離を取る。美澪は回転して受け身を取るが、膝をついて肩で息をしていた。
「美澪ごめん! 一瞬ヤバいと思って、思わず本気で防御しちゃった。美澪の妖気をかなり燃やしちゃったけど大丈夫?」
「うん、大丈夫。だけど、やっぱり琥太郎は強い。」
美澪の視線のフェイントに引っ掛かり、美澪の突きを避けきれないと感じた琥太郎は、咄嗟に美澪が纏う妖気を一瞬で燃やして攻撃の威力を削いだのだった。琥太郎が「気」の防御を張っていても、妖気ごと防御の内側に浸透させてくる美澪の新しい突きを顔面に喰らうのは危険だと感じたからだ。
「美澪、今のは俺の反則みたいなものだから、ちょっと一息ついて休憩しよう。」
琥太郎はそう言って、まだ周囲にうっすらと漂っていた美澪の妖気を集めて美澪の身体へと戻していく。僅かではあるが、少しは美澪も回復するだろう。
「別に反則なんかじゃない。それも琥太郎の実力。」
美澪が反則だったと言った琥太郎に反論した。
「まあそうかもしれないけど、だけど今みたいな戦い方をしちゃうとあんまり模擬戦にならなくなっちゃうからさ、そういうのは使わないつもりでいたんだよね。だけど、さっきのはヤバいと思って咄嗟にやっちゃった。それにしても美澪はもう、あんなに激しい動きの中で新しい突きを打てるようになってたんだね。美澪は本当に凄いや。」
「琥太郎にまだまだ手加減されてるのが悔しい。だけど、ちょっとだけでも本気にさせられたのは嬉しいから複雑。」
琥太郎と美澪がそんな会話を交わしていると、倉庫の前で観戦していた咲蔵が歩いてやってきた。
「なんか凄かった。速すぎて見えなくなっちゃう事もあったし。この間も思ったけど、2人ってやっぱり凄いんだね。」
咲蔵は目を丸くして驚いていた。ただし、驚きつつもどこかワクワクしている感じもする。とても穏やかそうに見える咲蔵といえども、強者を見て興奮するところは、なんとも妖らしい。
「ねえねえ、だけどさ、美澪が物凄く強い妖だっていうのは僕にもわかるよ。だけど、琥太郎はいったい何なの?見た感じは人っぽいんだけど、やってる事は人のそれじゃないよね。だからといって、妖とか霊とも違うし…」
「いやいや咲蔵、俺は人だってば。妖でもなければ、霊でもなくて、普通に生きてる人間だからね。」
「僕ら蔵ぼっこは、ご先祖様からずぅ~っと人の傍で生きてるんだよ。だから人の事については他の妖よりも詳しいと思うんだけど、琥太郎がやってるのは、人が出来る事じゃないよ。」
「それは咲蔵に同意。琥太郎は凄すぎる。」
なんだか美澪まで咲蔵に同意している。
「俺は人です。普通の人です。俺は人だから妖よりも人の事に詳しいんだよ。その俺が人だって言ってるんだから、やっぱり俺は人なんだよ。本当だってば。」
弁明がもう、なんだか何を言ってるのか判らなくなってきている。だが、琥太郎の能力は咲蔵から見てもやはり相当不思議なようだ。
その後10分ほど休憩したところで、美澪がもう大丈夫だと言って模擬戦を再開する事になった。
「「……接近戦になっちゃうと太刀打ちできなくなるから、出来るだけ距離を取って戦わないとダメだな…」」