116_ゴロゴロ
「今日滝井さんも言ってたけど、これってやっぱり特別な技術じゃないんだ?」
「妖の場合はよくわからないから無責任な事は言えないけど、霊力を使ってメールしたり、映画で有名な貞○さんみたいにテレビ画面から出ていくのなんかに比べたら、そんなに難しい感じはしないかなぁ。」
「えっ、流伽もテレビ画面から出てくるのやったことあるの?!」
「うぅっ、だ、だって、あれ見たら、私だって一応霊なんだから、やってみたくなるでしょ。以前の住人が留守の時に、テレビをつけてやってみたら、一応出来た。」
なるほど。流伽もテレビ画面から登場する技が出来るらしい。いくら流伽の見た目がかわいいからといって、リアルでテレビ画面から出てこられたら、住人も相当ビビると思う。真似をしてテレビから出てみた事を知られた流伽は恥ずかしそうにしていた。
そんなたわいもない流伽との話を横で聞いていた美澪の雰囲気がフッと変わった。琥太郎が美澪を見ると、可視化した状態が解けて普通の人からは見えない状態に戻っている。
「あれっ、美澪、可視化した状態を解くのは出来るんだ。」
「なんか出来た。」
美澪はそう言って、早速先ほど滝井さんに教わっていた可視化の練習をまた始めていた。
まず、全身から妖気を発してその妖気を纏う。それから大きく息を吸って周囲にただよう「気」を取り込むと、それを息を吐きながら全身へと広げた。すると、全身に広がった希薄な「気」が美澪の纏う妖気に吸収され、さらにその妖気が美澪の身体へと溶け込んでいった。しかし、やはり可視化した状態にはならず、可視化も出来ていない。
「やっぱり最初に纏ってる妖気が濃すぎるみたいだね。」
「弱い妖気を扱うのは難しい…」
美澪はやはり、弱くて希薄な妖気を纏う事に苦戦していた。すると、それを見ていた流伽が口を開いた。
「ねえ美澪、美澪は意識して妖気を体から発してるでしょ。それだと濃い妖気になっちゃうと思うんだよね。だから意識して妖気を発するんじゃなくて、何もしないでリラックスしてみて。体の力を抜いてリラックスして、体の全ての緊張を解きほぐす感じにするの。そうすると、普段抑え込まれてる妖気が、体から漏れ出てくると思うんだけど、そうやって体からちょっと漏れる位でちょうどよくなると思うよ。私もね、押し入れの中でゴロゴロしてだらけまくってると、以前の住人からなんか寒気がするなんて何度か言われたんだよね。そういう時って、私も体から霊気が漏れ出ちゃってたみたいなんだよね。」
流伽のアドバイスを聞いて、早速美澪がそれ試してみる。
立ったまま軽く目を閉じると、静かに息を吐いてジッと集中している。その様子を琥太郎が見ているが、特に妖気が美澪の身体から発せられる事はない。
「美澪、集中しすぎちゃダメだってば。集中するっていうよりも、もっと楽にしてリラックスだよ。う~ん、たぶん、立ったままよりも寝ころんじゃった方が上手くいくかも。」
流伽にそう言われて、美澪はリビングの床に仰向けに横になった。
「寝転んでゴロゴロした後に、気が付いたら寝ちゃってるくらいの感じだよ。手の平を床につけると体が緊張しちゃうから、手の平は天井に向けてリラックスね。」
美澪が床で体を揺するように軽くゴロゴロしてから、仰向けのまま目を閉じて動かなくなった。
すると、琥太郎の目に、うっすらと美澪の身体からごく僅かな量の妖気が滲んで漏れ出てくるのが見えた。
「あっ、美澪、妖気が出てきた!」
琥太郎がそう言うと、とたんに美澪の身体から僅かに漏れ出る妖気が止まった。
「あれっ、止まっちゃった。ねえ美澪、さっきちょっとだけ体から妖気が滲んでたんだけど、美澪にはそれが判った?」
「わからない。もう一度やる。」
そう言って、美澪が再び軽くゴロゴロしてから、目を閉じてジッとする。
「あっ、また出てきた。」