115_死語
その後、お酒などは頼まずに食事だけ済ませると、この日はもう遅いのでそれでお開きとなった。
「滝井さん、今日は2人で押しかけて2人ともマッサージしてもらった上に、美澪の可視化の練習にまで付き合ってもらっちゃってどうもありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそ楽しかったです。近いうちに、きちんと先日のお礼をさせてください。」
「そんなの、もう十分ですよ。滝井さんのスペシャルマッサージなんて、普通の人は受ける事が出来ないですから。本当にありがとうございました。」
「うん、気持ちよかった。滝井さんありがとう。可視化の練習もしておく。」
滝井さんと別れた後、帰り道にあるスーパーボンガボンガに立ち寄って流伽に頼まれていたヤンヤーヤチョコビスケットを購入した。帰宅すると、流伽がお風呂を沸かして待っていてくれた。
「えぇっ、美澪が人みたいになってる?!」
部屋に入るとすぐに、流伽が可視化した状態の美澪を見て驚いていた。
すかさず美澪に近づいてペタペタと美澪を触っている。可視化出来て嬉しい美澪も、流伽が興味深そうに触ってくるのをニコニコして受け入れている。
「流伽は人から見える状態になれないの?」
「あまり好きではないけど、一応なれるよ。」
琥太郎が流伽にたずねると、流伽はそう言ってスッと可視化した状態になった。
「うわっ、流伽凄い!一瞬で出来ちゃうんだね。」
「うん。だけど私はどちらかと言うと人から見られたくないから、この状態になるのはあんまり好きじゃないかな。琥太郎とか美澪には普段から見られてるから別になんとも思わないけど。」
「ねえ流伽、さっきのは一瞬で変わっちゃったからさ、もう一回見える状態になるのをやり直してみてもらえない?」
「えっ、別にいいよ。」
そう言うと、流伽はいったん可視化を解いて普通の人からは見えない状態に戻った。そこから、琥太郎に一声かけてもう一度可視化した。
「おぉ~、ありがとう流伽。今日、妖の可視化の方法をいろいろと教わってきたばっかりだったから、すごく参考になるよ。」
「ふふふ、この程度の事ならいつでも協力してあげられるよ。サービスで”うらめしや~”とか言ってあげようか?
「ははは、せっかくだから聞いてみたい。」
琥太郎がそう言うと、流伽が胸の前で手の指を下に向けてさっそくやってくれた。
「うらめしや~」
「ははは…、凄い、本物だ! だけど、なんで”うらめしや~”って言うの?」
「そんなのわざと言ってるだけで、普通言わないよ。"うらめしや~"なんて言ってたの、きっと凄く昔の霊でしょ。霊になったって、使うのは生きてた時の言葉なんだから、もしも恨んでる相手の前に現れたとしても、今時の霊が”うらめしや~”なんて言うわけないじゃん。」
「それはそうか。じゃあ、今時だったら、”ムカTK~”とか言っちゃうかもしれないのか。」
「えぇ~?! それって思いっきり死語なんじゃないの。絶対に今時じゃないよそれ。」
「うぅっ…」
既にお亡くなりになっている流伽に死語だと指摘されるのも、ちょっと複雑だ。
「ねえ琥太郎、私の可視化のやり方って、妖のやり方と何か違ってた?」
「流伽が可視化するの見てたけど、やってる事は基本的に妖と同じみたい。使ってるのが霊気か妖気かの違いだけなんじゃないかなぁ。」
先程琥太郎が流伽の可視化の方法をじっくりと見ていたところ、基本的に滝井さんがやっていたの同じだった。最初に、人の存在感の元となる周囲の「気」を取り込み、それを自身が纏う薄い霊気に吸収させてから体に溶け込ませていく感じだ。
「へぇ、そっか。なんか妖と同じ事してるって、ちょっと不思議。だけど、美澪は可視化出来るようになってよかったね。」
「まだ出来ない。これは、琥太郎がやってくれた。私はまだ練習が必要。」
「えっ、そうなの?」
「いや、別に俺が全部やったわけじゃなくて、ちょっと手伝っただけだよ。」
「そっか。う~ん、だけどこれって、そんなに難しくないと思うから、美澪ならちょっと練習すればすぐじゃない?」
流伽も滝井さんと同じく、可視化に関しては難しい技術だとは感じていないようだ。