114_「気」を感じ取って操作する能力
琥太郎が美澪にそう言うと、すぐに美澪が全身から妖気を発した。
「もういいよ。ありがとう。じゃあ、今から滝井さんが纏ってたのと同じくらいの濃さの妖気を美澪に纏わせてみるね。」
琥太郎は、美澪が発した妖気のほんの一部を「気」の操作で確保すると、それを大きく広げながら希薄にしていった。そして滝井さんが纏っていた妖気と同じ位の濃さになったところで、美澪の全身をその妖気で包む。
「どう、滝井さんが纏ってた妖気ってだいたいこれ位の濃さだったと思うんだけど、美澪にはこれが感じられる?」
美澪はジッと目を閉じて、琥太郎が纏わせた妖気の感触を確かめているようだ。
「ん~…、集中すれば、凄く薄い妖気に全身が包まれてるのは判る。だけど、この濃さの妖気を自分で操作しようと思うとかなり難しい。」
「今まで、こういう薄い妖気を扱う練習をしてこなかったんだもんね。練習すればなんとかなるんじゃない?」
「わかった。新しい突きの練習だけでなく、この薄い妖気を扱う練習もする。」
「ねえ美澪、この状態でもう一度周囲の「気」を取り込んで、可視化を試してみてよ。」
琥太郎が美澪にそう言うと、美澪が再び目を閉じて集中し始めた。
しばらくじっと集中した後、軽く息を吐いてから美澪が大きく息を吸って周囲の「気」を取り込む。。
次に、息を吐きながら取り込んだ「気」を全身に広げていくと、琥太郎が纏わせた美澪の薄い妖気がそれを吸収した。更にそこから、「気」を吸収させた妖気が美澪の身体へと溶け込んでいく。
「おっ!」
その瞬間、美澪の身体が一瞬だけぼやけるように滲んでから見え方が変わった。
「やったぁ! 美澪、出来たよ。美澪が人からも普通に見える状態になってるよ!」
「えっ…」
美澪が呆気にとられた表情で自分の体を見つめている。
「美澪も、訓練次第でちゃんと可視化出来る事がわかったね。良かった。」
呆けていた美澪が、笑顔になって琥太郎を見た。
「これ、出来てるの? 凄い! へへへ… 琥太郎ありがとう!滝井さんもありがとう!」
滝井さんも、琥太郎の協力があったとはいえ、可視化に成功した美澪を見て笑顔だ。
「ねえ美澪、今日はもう遅いから練習はこれで切り上げるとして、せっかくだからこの状態でみんなでご飯食べに行かない?」
「行く! そうする!」
「ちょっと遅くなっちゃいましたけど、滝井さんもまだご飯に行くのって大丈夫ですか。」
「はい、大丈夫です。」
甲州街道沿いの遊歩道を歩いて、初台駅近くのファミレスへと移動する。すると、突然美澪が琥太郎の手を握ってきた。
「えっ、どうしたの?」
「ちゃんとみんなから見える状態で、琥太郎と手を繋いで歩きたかった。」
「ふふふ、仲良しなんですね。」
滝井さんが、そんな琥太郎と美澪を見て笑っている。
「うん、琥太郎と結婚するんだよ。」
「えぇ、そうなんですか?! ラブラブで羨ましいなぁ。」
美澪の琥太郎と結婚する発言にも、その言い方が子供っぽかったせいか、滝井さんはやはり楽しそうに聞いていた。琥太郎は、なんだか居心地が悪いと感じつつも、無理に否定する事でもないので、その場は苦笑いでやり過ごした。
ファミレスに入り食事の際に滝井さんから聞いた話では、可視化の状態はこのまま何もしなければ自然と解除されてしまうとの事だった。可視化の状態を維持するには、人に対する存在感の元となる周囲の「気」を定期的に取り込む必要があるらしい。ただ、慣れてしまえばそれも自然と出来るようになるので、滝井さんも今では無意識に可視化の状態を維持出来ていると言っていた。
逆に可視化を解除するには、体に取り込んだ「気」を意識して妖気と一緒に体から発すると、人に対する存在感が無くなり可視化も解除されるそうだ。このあたりは、ある程度「気」を感じ取って操作する能力が必要になるようだ。美澪もこうした滝井さんの話を熱心に聞いていた。