111_可視化
なるほど。確かに美澪が風邪をひいているところなど見た事がない。それにしても、少なくとも怪我に関してはかなりの重症でも治せてしまうというのは凄い事だと思う。
その後琥太郎も45分ほどマッサージしてもらったところで、そろそろお店を閉めなければいけないとの事で終了となった。
「滝井さん、なんだか予約時間よりも大幅に長くやってもらっちゃって、どうもありがとうございました。お世辞抜きに疲れが取れて、普段以上にめちゃめちゃ元気になりました。美澪が早速外に行って練習したくなったのもわかります。」
「そう言ってもらえると私も嬉しいです。普段は、あまり劇的に効果が出てしまうと問題がありそうなので、本当にちょっとだけしか妖力を使わないようにしてるんです。だけど今日はそういうのを気にせずに施術させてもらいました。琥太郎さん達は特別ですから、疲れた時とか、ちょっとした怪我をした時なんかは遠慮なさらずに連絡してくださいね。」
「本当にどうもありがとうございます。疲れも怪我も治っちゃうなんて、なんだか安心で心強いです。」
「ふふふ、だからといって、無理したらだめですからね。」
お店を出る際にお会計を済ませようとしたところ、滝井さんからはあらためてお金は受け取れないと支払いを拒否されてしまった。先日も琥太郎が伝えたとおり、毎回無料にしてもらったのでは気を使ってしまい、かえって来ずらくなってしまうので、次回からは支払わせてもらうようお願いした上で、今回は甘えさせてもらう事にした。
この後は軽く食事でもしましょうという事になっているのだが、滝井さんは少し片づけがあるとの事で、琥太郎は外で練習している美澪のところで待つ事にした。
琥太郎がお店を出ると、目の前の緑道の少し広くなっている場所で美澪が練習を続けていた。どうやら、素早い動きの中で徑と妖気を纏った突きを打つ練習をしているようだ。今は、左右に素早くステップを踏みながら前方へ突進し、急停止して突きを打つ動きを繰り返している。午後からは美澪一人で練習していたわけだが、午前中に琥太郎が目にしていた美澪の動きと比べると、各段に素早く徑と妖気を纏った突きを打てるようになっていた。
「美澪凄いよ。もうこんなに素早く打てるようになっちゃったんだ。」
「これじゃ、まだまだ遅い。相手に直接打撃を当てるためには、もっともっと早くならなきゃだめ。」
美澪自身は今の動きに全く納得していないようだが、その進歩のスピードには目を見張るものがある。
滝井さんのマッサージで疲れが完全に取れて普段以上に元気になった上に、美澪の進歩にも感化された琥太郎も、美澪の横で徑を発動させる突きの練習を始めた。しかし午前中同様に琥太郎は、足の裏で徑と思われる気のようなエネルギーを発生させる事は出来ても、それを膝上あたりまでしか移動出来ずにいる。
「「……う~ん、やっぱり難しいなぁ。簡単に出来ちゃう美澪が絶対に凄すぎるんだよなぁ…」」
15分ほど美澪とそれぞれ練習を続けていると、お店から滝井さんが出てきた。
「お待たせしちゃってごめんなさい。」
「全然大丈夫です。滝井さんのマッサージで元気になったら、美澪と同じで俺も体を動かしたくなっちゃってました。」
「元気になったとは言っても、あんまり無理しすぎないでくださいね。ところで美澪さん、せっかくだからちょっとだけ可視化の練習もしてみませんか。」
「する!」
滝井さんの提案に、美澪がすかさず反応した。
「ここだと、人に見られちゃうといけないので、あそこの木の陰に移動しましょう。」
滝井さんにそう言われて、琥太郎達は少し離れたところに植えられている木の陰へと移動する。そこはビルの壁とうまく重なり、まわりからは見えない場所になっていた。
「それじゃあ、いったん私も可視化の状態を解いてみますね。 ふぅ~」
滝井さんがそう言って息を吐くと、すっと滝井さんの姿が消えた。もちろん、消えたといっても琥太郎には見えているのだが、その見え方が美澪と同じく普通の人には見えない状態の見え方になった。
「うわっ、そんなに簡単に消える事も出来ちゃうんですね。」