110_怪我くらいなら治る
琥太郎はベッドでスマホを見ながら美澪を待ち、シャワーから出てきた美澪と18時半位に滝井さんのお店へ向かった。
歩いて15分程で滝井さんのお店の晴照屋へ到着すると、滝井さんは既に前の予約の施術を終えて待っていた。
「あっ、琥太郎さん、美澪さんいらっしゃい。一昨日はどうもありがとうございました。」
「滝井さんこんばんは。その後どうですか?」
「はい、明らかに体調がよくなりました。今はすっかり元気です。本当に琥太郎さんや美澪さん、風音さん達のおかげです。」
「良かった。まさかプロの呪い屋に呪われてるなんて思わないですもんね。もしも、またどこか調子悪くなるようでしたらすぐに教えてくださいね。先日の呪い屋の祟さんは流石にもう何もしてこないとは思うんですけど、依頼主がどういった対応をしてくるかわからないですからね。」
「ありがとうございます。琥太郎さんにそう言ってもらえると心強いです。何かあったら頼らせてもらいますね。お礼というには全然足りませんけど、今日はいつも以上にしっかりマッサージさせてもらいますからね。」
滝井さんに案内されて施術用のベッドに行くと、ちょこんと美澪がそのベッドに横になった。
「あれっ、え~っと、美澪、マッサージしてもらうの?」
「うん。琥太郎は休んでたから大丈夫。私は昨日も今日も、琥太郎が休んでる間ずっと練習してた。」
「えぇ?! 俺も疲れてるんだけど…」
美澪にマッサージを取られてショックを受けている琥太郎を見て、滝井さんが笑っていた。
「お二人ともちゃんと施術しますから大丈夫ですよ。」
まずは美澪がマッサージを受ける事になり、琥太郎は椅子に座ってその様子を見ていた。
マッサージ中に滝井さんの手から発せられている妖気だが、滝井さんが先程"いつも以上に"と言っていたとおり、先日見た時よりも数段濃い妖気が手から発せられていた。そのマッサージを受けながら、美澪も気持ち良さそうにしている。途中から美澪はそのまま寝てしまっていたが、45分ほどマッサージしたところで琥太郎と変わってもらった。
「琥太郎から話は聞いてたけど、蛟のマッサージは凄い。本当に疲れが無くなった。これなら、またすぐに練習出来る。」
「美澪、ちゃんと滝井さんって名前で呼ばなきゃ失礼だよ。」
「わかった。滝井さんは凄い。」
美澪はそう言うと、琥太郎がマッサージを受けている間に少し練習するとの事でお店から出ていった。お店の前は玉川上水の緑地の、公園のような遊歩道になっているので、そこで練習するらしい。
美澪がお店から出ていって、琥太郎にも滝井さんの濃い妖気付きのマッサージが始まった。
「「……うわっ、本当にこれは凄いな…」」
程よい強さのマッサージによって筋肉が揉みほぐされる気持ち良さと一緒に、滝井さんの手からジンジンと心地よい刺激が体内に入ってくるのを感じる。
「滝井さん、これ、本当にめちゃめちゃ気持ち良いです。」
「ありがとうございます。気持ち良いだけじゃなくて、ちゃんと疲れも取れますからね。ちょっとした怪我くらいなら治る強さの施術ですよ。」
実際に、滝井さんがちょっとマッサージしてくれただけで、突きの練習で怠さを感じていた足から、既にその怠さが無くなっているのを感じる。
「怪我も治るって、滝井さんはどの程度の怪我まで治せるんですか。」
「とりあえず、切り傷とか骨折位なら大丈夫です。腕や足の欠損は試した事はないのですが、欠損した部位が無い状態では、さすがに元通りにはできないと思います。切断された直後で、切断された腕や足などがある状態であれば元通りにする位は可能なはずです。」
「病気も治せるんですか。」
「そうですね、とりあえず普通の風邪くらいなら治せるみたいです。あとは、あまり重い病気は試した事がないので、どこまで治せるかよくわからないです。妖って怪我はしても、人間ほど病気にはかからないですからね。まあ、その分、人間のように医療が発達しないので、万が一重い病気になっちゃうと大変みたいなんですけどね。」