106_ダメージ
美澪が突きを放った瞬間、美澪の周りに突風が吹いた。間近にいた琥太郎は、その突風をもろに受けた。
「みっ、美澪、何今の。凄いよ。出来ちゃったんじゃない?!」
琥太郎が美澪に声をかけるが、美澪は自分が放った突きに驚いて固まってしまっている。
「美澪、大丈夫?」
「えっ、あっ、うん。何、今の。」
琥太郎が美澪に尋ねたのと同じ質問を、美澪も琥太郎に返す。
美澪が妖気と一緒に突きを撃った瞬間、美澪の拳の先からは、徑と妖気が綺麗に螺旋状に絡み合いながら前方へと打ち出された。美澪の足の裏で回転しながら発生した徑が丹田を通過する際に、丹田で回転しながら圧縮されていた妖気と綺麗に絡み合ったようだ。その放たれた突きの勢いで、美澪のまわりには突風が吹いた。
先程、徑を回転させた突きだけを打った際には、放たれた徑は3m程度しか前方へと飛び出していなかったが、今回は絡みあった妖気と一緒に30mくらい飛んでいた。逆に、美澪の通常の妖気弾は100m以上飛ばす事が出来るが、徑と絡み合って撃ち出された妖気は、徑と一緒に30mくらいで霧散してしまっていた。
「さっき、徑を回転させる練習をする前に、徑と妖気を一緒に撃ち出してみたでしょ。その時は徑と妖気がほとんど混ざらずに、それぞれが単独で拳から撃ち出されてたんだ。だけど、今美澪が撃ったのは、回転して細長く伸びた徑に、丹田で回転しながら圧縮されてた妖気が全て綺麗に絡みあって撃ち出されてた。なんか、あきらかにヤバい威力になってそうだったよ。」
美澪が自分の拳をマジマジと見て、何かを考えている。
「試し打ちしたい。思いっきり殴れる岩とかはない?」
「ここにそんな岩なんて無いし、こんなにまわりに人がいる場所で、そんな試し打ちなんで出来ないよ。せめて俺の腹にして。俺も新しい美澪の技を受けてみたいし。」
「うん。ふぅ~~~」
美澪が大きくゆっくり深呼吸している。その美澪の前に琥太郎が立つと、美澪もあらためて突きの構えをとった。
「ふぅ~…… ふんっ」
ブオォッ
「うぅっ!」
美澪の突きを受けた瞬間に、琥太郎が2m程後方に吹き飛ばされた。
「ゴホッ、ゴホッ・・・」
「琥太郎! 大丈夫?」
今まで美澪の攻撃で琥太郎が吹き飛んだりダメージを受けたりする事など1度もなかった。突然後ろに吹き飛んで琥太郎が咽ているのを見て、慌てて美澪が琥太郎に駆け寄った。
「ごめんごめん、なんとか大丈夫。いや、だけど今のは危なかったなぁ…」
「琥太郎に攻撃が効いた事なんてないからびっくりした。」
「美澪の技を受けるなんて自分で言っときながら、心配させちゃってごめん。いやぁ、ちょっと油断したっていうか、少し甘く見てたよ。美澪の突きを受けた瞬間、いつもの「気」の防御を真っすぐ突き抜けて拳が直接お腹に当たるような感覚がしたんだ。それで体が反射的に、美澪の突きを全部受け止めるのをやめて、突きと一緒に後ろに吹き飛ばされたんだよね。それでもお腹に結構ダメージがあったよ。俺もこんなの初めてだよ。」
琥太郎が大丈夫そうなのを見て、安心した美澪がニヤニヤし始めた。
「琥太郎に初めて私の攻撃が効いた。よしっ!」
美澪が胸の前で小さくガッツポーズをしている。
「よし、美澪、今度は本気で受け止めるから、また今のを打ってもらってもいい?」
「うん、今度は琥太郎を倒すよ。ふふふ…」
美澪が笑顔で再度琥太郎の前に立つ。
「よっしゃっ!」
琥太郎も、今度はしっかりと気合を入れて、普段以上に強力な「気」の防御を張った。それを感じ取った美澪も、真剣な顔に戻り大きく深呼吸をする。