102_栗ごはんと才能
風呂から上がると、流伽がテキパキと夕飯の盛り付けなどを行っていた。
「えぇ!もうお風呂あがったの?」
「うん、俺、長湯が苦手だから、いつもすぐにあがっちゃうんだよね。お風呂とか温泉は好きなんだけど、入ってる時間は普通の人よりも短いと思う。」
「せっかくお掃除してお風呂わかしたんだから、もうちょっとしっかり入ってくれててもいいのに。だけど、もうすぐ夕飯の準備も終わるからまあいいか。」
そう言いながら、あっという間に食卓に流伽の作った夕飯が並んでいった。
栗ごはん
秋鮭ときのこのホイル焼き
ナスと厚揚げの煮物
キャベツの浅漬け
さつまいもの甘露煮
味噌汁
旬の食材を使った旬の料理は、見るからに美味しそうだ。既にたまらなくいい匂いが漂ってきている。
琥太郎がお風呂に入っている間、早速PCを立ち上げて格闘ゲームをやっていた美澪にも声をかける。
「美澪、ご飯の準備が出来たからこっちにおいでよ。」
すると、美澪もささっとゲームをセーブして食卓へやってきた。
「うん、美味しそう。」
「ここの洗いものだけ済ませたらすぐにそっちに行くから、冷めないうちに食べてて。」
「流伽、ありがとう。お言葉に甘えて先にいただいちゃうね。いただきます!」
食べる前から判ってはいたが、めちゃめちゃ美味しい。少し薄味で仕上げられているおかげで、素材の味が存分に堪能できる。流伽の調理が、旬の美味しい食材のその美味しさを更に引き立たせている。
「流伽、これ本当にめちゃめちゃ美味しいよ。」
使用されている食材をよく見ると、それらには隠し包丁が入れられていたり、切り口の面取りがされていたりと、琥太郎が一人で自炊する時には絶対にやらないようなひと手間が加えられている。ただ美味しいだけでなく、琥太郎が普段は食べる事が出来ない、そうしたひと手間加えられている料理がまた嬉しく感じられる。
並べられた料理をパクパクと一通り食べていた美澪も、ここで口を開いた。
「流伽は凄い。これは才能。」
そう言って、また黙々と流伽の料理を食べていた。
そうしているうちに、洗い物を全て済ませた流伽が食卓についた。
「流伽、本当にありがとう。流伽は本当に料理上手だよね。なんだか手間もかかってそうだし、俺自宅でこんな料理食べさせてもらえると思わなかった。」
「そんなに喜んでもらえたら、なんだか作り甲斐があるな。あんまり品数を増やしちゃう食費がかさんじゃうけど、なるべく節約しながら頑張るね。」
流伽はこれまでも、食材を無駄にせずにうまく使ってくれていた。というよりも、基本的に冷蔵庫の残り物を使って美味しい料理を作ってくれた。作った料理がおいしいだけでなく、こういうところが本当に家庭的で凄いと思う。
その後、流伽も一緒に楽しくご飯を食べながら過ごした。美澪はなんだかいつもより口数が少ない感じもしたが、流伽の料理は普通に美味しそうに食べている。
流伽の食べる量は、相変わらず神棚のお供え程度のごく少量だ。基本的には食べなくても問題ないらしいので、やはりこれでいいらしい。しかし最後にデザートとして出したアイスは流伽も普通に1人分以上食べていたので聞いてみると、お菓子やアイスは普通に1人分が必要なのだと謎理論を展開していた。
食後は琥太郎と美澪も片付けを手伝ったのだが、基本的には使った食器を流しまで運んだだけで、洗い物は全て流伽がやってくれた。冷蔵庫をのぞいてみると、今日使わなかった食材や、残った食材が綺麗にラップされた状態で整理して入れてある。
「「……う~ん、流伽に何かお礼したいけど、何をするのがいいんだろう…」」
食後に軽くお茶をしてから琥太郎がベッドで横になっていると、お風呂から上がってきた美澪が小さな虎の姿になり琥太郎の腕の中で丸くなった。シャンプーの匂いがする美澪のサラサラの毛並みが心地よい。
「流伽は凄い。私にはあの才能はない。」
琥太郎の腕の中で撫でられていた美澪が呟いた。
「美澪はまだ料理とかをやってないだけで、才能の有無はまだわからないんじゃない?」
「料理の才能はない気がする。だけど戦闘の才能はある。だから、また明日は琥太郎が教えてくれてる事をしっかり練習する。」
美澪はそう言って、更に小さく丸まると、すぐに静かな寝息が聞こえてきた。
「「……美澪の期待に応えられるように頑張らないとな…」」