101_ここから先
その後、琥太郎は美澪に足の裏で発生した「気」のようなエネルギーの動きを都度伝えながら、琥太郎自身も美澪と同じ事をやってみた。
まずは足を上げて落とす。これについては、琥太郎もすぐに足の裏に「気」のようなエネルギーを発生させる事が出来た。
そこから、美澪と同じように、足の裏で発生したエネルギーを移動させようとするのだが、これがやはり難しい。琥太郎自身は「気」の操作が出来るので、発生した「気」のようなエネルギーをいつもの「気」の操作によって動かそうとするのだが、やはりうまくいかない。一瞬だけ掴んだ感触があるものの、動かそうとするとすぐに消えてしまうのだ。やはりこの「気」のようなエネルギーを動かすためには、インチキは出来ず地道に武道の稽古を続けるしかないようだ。
「ねえ美澪、だいぶ暗くなってきたし、そろそろ帰ろうか。」
「結局出来なかった…」
「たしかに十兵衛爺ちゃんみたいな突きを完成させる事は出来なかったけど、朝からここまでで、妖気を練ったりも出来るようになったし、美澪は十分進歩したと思うよ。普通はきっとこんなに上達しないって。」
「それは琥太郎のおかげ。普通は技を教われても、妖気を動かしてもらえたりはしない。」
「まあ、とりあえず今日はこれくらいにしておいて、俺はまた明日も休みだから、明日またもうちょっと練習しよう。」
「うん。明日には十兵衛爺ちゃんの突きを完成させる。」
まだ練習を続けたいのか、若干後ろ髪を引かれるような様子を見せつつも、美澪も琥太郎と一緒に帰路についた。
流伽にこれから帰る旨のメールを入れてから、帰りがけに山手通り沿いのコンビニで、夕飯の用意をしてくれている流伽にお土産のアイスを買う。流伽のアイスを選んでいると、横から美澪がやってきた。
「琥太郎、あれ食べたい。」
そう言って指をさしてリクエストしてきたのはみたらし団子だった。君津にいた頃に、十兵衛爺ちゃんが時々買ってきては美澪も一緒に食べていたらしい。東京に出てきてからは食べる機会も無かったので、久しぶりに食べたいとの事だった。
美澪のリクエストのみたらし団子と一緒に、流伽の分を含めた3人分のアイスを購入して琥太郎の部屋へと帰宅した。
「おかえり~! 今日はお風呂にお湯もためておいたよ。」
「えぇ、本当?! この部屋でお風呂にお湯をためて入るのなんて初めてだよ。」
「バスタブの中が結構汚れてたから、お掃除大変だったんだよ。」
「うわぁ本当だ。なんかめちゃめちゃ綺麗になってる。」
流伽がお風呂にお湯をためてくれた事に驚いて琥太郎が風呂場をのぞいてみると、流伽が言うように風呂場がめちゃめちゃ綺麗になっていた。
「流伽、本当にありがとう。いつもシャワーしか浴びてなかったから、ほとんど掃除もしてなくて…、こんなに綺麗にしてくれてるって本当に大変だったでしょ。」
「ふふふ…、もっと褒めて褒めて。」
実家にいた頃は、ほとんど毎日風呂にお湯をためて入っていた。それが東京に出てきて一人暮らしを始めてからは、基本的にいつもシャワーだけで済ませてしまう。水道代がかかるという事もあるが、それ以上に、掃除の手間やお湯を溜める手間が面倒だからだ。
「夕飯の用意が終わるのにあと15分位かかるから、よかったら先にお風呂に入ってて。」
「うん、そうさせてもらおうかな。あっ、美澪はどうする?先にお風呂に入るなら入っちゃってもいいよ。」
「う~ん、私はご飯のあとでいい。」
美澪はご飯のあとでいいと言うので、琥太郎が先に入らせてもらう事にした。
先に頭と体を洗ってから湯舟につかる。ここでお風呂のお湯につかるのは初めてなので、なんだか新鮮だ。肩まで湯につかり、ぼーっとしながら、琥太郎は今日の美澪との練習を振り返った。
手の平に妖気を集めたり、丹田で妖気を練ったりなど、美澪にはいろいろ試してもらったが、美澪にも直接話したとおり、美澪の上達は本当に早かった。今は突きの練習で多少手こずってはいるものの、美澪であればきっとすぐに十兵衛爺ちゃんと同じような突きもマスターしてしまうだろう。
取り合えずここまでは琥太郎が漠然と考えていた事を美澪にやってみてもらった。その結果、攻撃力という点では一応これまで以上の威力が出るようになったと思う。しかし、美澪が望んでいた必殺技という点では、まだまだ何かが足りない。
「ここから先をどうするかなんだよなぁ…」