99_落とす
美澪の足の裏に「気」のようなエネルギーが生まれてから、右手が突き出されるまではほんの一瞬だ。琥太郎もグッと集中して、美澪の突きのタイミングに合わせられるよう集中する。
「「ふんっ!」」
「えっ?!」
美澪の足の裏に「気」のようなエネルギーが発生すると同時に、琥太郎がそれを掴むように捉えた。しかし、掴んだ「気」のようなエネルギーを動かそうとした瞬間にすっと消えてしまったのだ。
普段琥太郎が「気」の操作をする際には、一度掴んでしまえば掴んだ「気」は妖気や霊気などを含めて、すぐに消えてしまう事はない。もちろん、時間経過とともに少しづつ減少したり弱まっていったりはするものの、しばらくの間は掴んだままある程度維持出来て、だからこそその操作も可能になる。しかし、今美澪の足の裏で発生した「気」のようなエネルギーは掴んだ直後にスッと消えてしまった。他の「気」と同じように掴んだ際の感触はあったので、掴めなかったという事ではないはずだ。
「「……なんだろう今の感触。普通の「気」の感触とは違うな…」」
その後も美澪の突きに合わせて、琥太郎が見れいの足の裏で発生する「気」のようなエネルギーを掴んで移動しようとするのだが、やはりうまくいかない。
「美澪ごめん、足の裏で発生してる「気」みたいなエネルギーを動かそうとしてるんだけど、これ、俺にもうまく出来ないや。一瞬掴めてる感触はあるんだけど、動かそうとするとすぐに消えちゃうんだよね。」
「突きながら手の方に移動するのをイメージしてるんだけど、ちょっと位移動出来てはいない?」
「うん、今のところ全く移動してない。足の裏で発生してそのまま消えちゃってる。」
以前に風音さんが霊気を練るのを補助した時や、今朝美澪が妖気を練るのを補助した時のように、美澪の足の裏で発生した徑だと思われる「気」のようなエネルギーも、琥太郎が操作してあげる事でその感覚を掴んでもらえればいいと考えていた。しかし、琥太郎にも動かしてあげる事が出来ないとなると、何かやり方を考える必要がある。
「さっき美澪がさ、十兵衛爺ちゃんからいつも、力を抜けとかリラックスして突けとか言われてるって言ってたでしょ。実際、さっきは力を抜く事で「気」みたいなエネルギーを足の裏に発生させる事にも成功したしさ、ここから先も力を抜いてリラックスする事がポイントになりそうだよね。」
「う~ん…」
美澪も上半身の力を抜いてグラグラさせながら、どうしたらよいか悩んでいるようだ。
すると、しばらく考えていた美澪が、再び足の脱力から足の裏に「気」のようなエネルギーを発生させ始めた。今は突きは打たずに、両手はぶらりと下げている。
美澪が瞬間的に足を踏ん張り、足の裏にエネルギーを発生させる際に、ぶらりと下げた両腕が反動で少し揺れる。美澪はじっくり時間をかけながら、これを繰り返している。よく見ると、反動で動く手の揺れ幅を少しづつ大きくしているようだ。しばらくそれを繰り返して、腕だけでなく上半身までグラッと揺れるような動きになり始めたところで、美澪の足の裏で発生する「気」のようなエネルギーが一瞬美澪の膝あたりまで動いた事に琥太郎が気づいた。
「えっ、今、動いた!」
琥太郎の言葉を聞きつつ、更に何度か美澪がその動作を繰り返すとまた「気」のようなエネルギーが動いた。
「あっ、また動いた!」
その後も何度か「気」のようなエネルギーが動いた事を確認したところで、美澪が息を吐きながらいったんその動作をやめた。
「美澪、凄い! どうしたらいいかわからなかったんだけど、美澪1人でちょっとづつ出来てきてるよ。なんか意識して力を抜いてるみたいだけど、どうやってるの?」
「さっきは、足を上げてから地面に足を落としてうまくいったでしょ。だから今度は、足の裏から腕の先に落ちていく感じをイメージしてる。足の裏に生まれたエネルギーを動かすんじゃなくて、力を抜いて腕の先へと落とすみたいな感じ。」
なんとなくイメージはわかる気がする。上から下ではないし、真っすぐな軌道でもないのだが、落とすと言われるとなんだか琥太郎にもそれがイメージ出来た。
「美澪が今の動きを始めてから、毎回ではないけど、何度か膝を通り越して腰近くまで「気」みたいなエネルギーが動いてたよ。」
「じゃあ、これをもうちょっと続けてみる。」