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プロローグ

 ほむら 琥太郎こたろう。つい先日24歳になった。

 大学を卒業してそのまま東京の広告代理店に就職した。広告代理店といっても、TVCMなどを扱う大手ではなく、店頭の販促物や商品パッケージなどの制作を行う小さな販促会社だ。

 就職して1年が過ぎ、最近はそれなりに働くペースというのも掴めてきたように思う。

 8月のお盆休み、今年は顔見せ程度に1泊だけ実家に帰省した。帰省するといっても、実家は千葉県の君津市というところ。自宅のある初台(渋谷区)からは、高速バスを利用してドアtoドアで1時間半程度しかかからない。

 高校卒業と同時に上京し、東京暮らしが長くなるにつれて、近いはずの実家にも帰省する頻度や日数は年々短くなってきた。実家に泊まっていても、どうも落ち着かないというか、独り暮らしの東京のアパートの方が心地よく感じるようになってしまったのだ。

 というわけで、両親に元気な顔だけ見せて、翌日の昼過ぎには実家を出て東京のアパートに戻ってきてしまった。


「「……うーん、やっぱりこの部屋が落ち着くなぁ…」」


 帰宅してエアコンのスイッチを入れると、すぐにベッドに横になる。

 携帯の動画サイトを見ながら、自分独りの部屋と時間をのんびり満喫する。

 そのまま1時間ほど携帯を見ていたら、なんだか眠たくなってきた。

 そろそろ夕飯を買いに出かけたいのだが、その前にちょっと寝ちゃおうかなどと考えて目を閉じる。


「「……ん?」」


 何だか違和感を感じる。何かがおかしい。

 ゆったりとしていたはずの部屋の空気が、今はなんだかピンと張りつめた感じがする。

 部屋の空気がとても重苦しい。そのうちに、呼吸をするのが辛くなってきた。

 23度設定のエアコンによって部屋は肌寒い位に冷えている。それにも関わらず、首筋から脂汗が滲んできた。

 もしかしたら体調が悪いのかもなどと考えてみた。しかし、やはり室内に感じる違和感は気のせいではなさそうだ。

 すると突如、ゴォーといった地響きのような轟音が鳴り始めた。部屋にあるワイヤーラックやテーブルが細かく震えるように揺れる。

 そして更に激しい息苦しさが襲ってきた。


「うぅ……」


 もはや呼吸もまともに出来ない。

 胸は空気の重さで押しつぶされそうだ。

 苦しさで動く事も出来なくなり、胸を押さえてベッドの上でうずくまる。


「「……マジでやばいな。なんなんだこれ。俺このまま死ぬのか? 」」


 そんな事が頭をよぎった。

 すると突然ショートカットの見知らぬ女の子が駆け寄ってきたのがぼんやりと見えた。彼女が自分の名前を叫んでいる。


「琥太郎、琥太郎! どうしたのっ? しっかりして! 」


 身長は150cmにも満たないくらいで、歳の頃は15~16歳位だろうか。

 この子は誰?

 何故この子は自分の名前を知ってるんだろう。

 何故ここにいるんだろう。

 朦朧とする頭の中では、目の前の女の子に心当たりがないかを考えていた。

 その間も苦しさは続く。併せて、下っ腹のヘソの下あたりが急激に熱くなってきた。

 その時、目の前の女の子は突如後ろを振り返り叫んだ。


「いい加減にしてよっ!」


 女の子が大声で叫び玄関の方へ手の平を向けた瞬間、彼女の手が青白く光り、鈍い衝撃とともに青白い炎の玉ような物が玄関の方に向かって打ち出された。それと同時に、琥太郎の体からもバンッという大きな音がして、熱くなっていた下っ腹に猛烈な衝撃が走った。そのまま目の前が真っ暗になり、琥太郎は意識を失った。




 耳元で大きな声がする気がする……

 なんだか息が苦しい……

 頭がグラグラする……


 少しづつ意識が戻ってきた。

 耳元では大声で名前を叫ばれていた。


「琥太郎! 琥太郎! お願い! 目を開けて! 琥太郎! 」


 耳元で先ほどの女の子が泣き叫んでいる。

 息が苦しいのは、女の子が自分の胸ぐらを強くつかんでいるため、シャツで首がしまっているかららしい。

 グラグラするのは頭の中ではなく、胸ぐらをつかまれて実際に頭を強く揺さぶられているからだった。

 どうやら気を失っていたのはほんの一瞬だったようだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ。大丈夫だから。」


 女の子がハッとした顔で琥太郎を見る。


「琥太郎、私の事が見えるの?! うわぁぁぁーん」


 抱き着いてきて号泣する見知らぬ女の子。

 自分の名前を知ってるし、自分の事を心配して号泣してる。いったいこの子は誰なんだろう。

 琥太郎は女の子の肩に手をかけて、ゆっくりと女の子を自分から引き離す。そして、あらためて女の子の顔を覗き見る。


「「……う~ん、どっかで見た事があるような気もするけど、やっぱり全くわからないなぁ…」」


「なんか凄く心配してくれてありがとう。だけど、なんていうか……、君、誰? 」

「ええっ……えっ?!?! うわぁぁぁーん」


 さっきの号泣は自分が意識を取り戻したのを見て、嬉しくて泣いていたようだ。だけど今度は、あきらかにショックを受けて泣いてる。


「「……まいったなぁ…」」


 万が一自分がその子に会った時の事を忘れてしまっているのであれば気まずいななどと考えていると、琥太郎はその女の子が放つ「気」に気が付いた。女の子の体の周りには、女の子の放つもやっとした霞のような「気」がはっきりと見えている。そしてその「気」からは、鋭いピリピリとした感じとともに、どこか甘酸っぱいような感覚を感じ取れた。


「「 あれっ、また「気」が見えてる?! うん、間違いない、しっかり「気」を感じられてるっ!! 」」


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