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【web版】拾った奴隷たちが旅立って早十年、なぜか俺が伝説になっていた。  作者: AteRa
第八章:魔族の国・ネーシス王国編

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第九十七話「村を挙げての歓迎会」

 日も暮れ始め、ベッドでゴロゴロしながら今度は夕食をどうしようかなんて考えていると、再び借りていた部屋に来客があった。


「おうおう、ちゃんときれいになってんじゃねぇか!」

「当たり前です。私たちが掃除したんですから」


 やってきたのはビーガルの夫婦だった。

 暑苦しいビーガルと冷静沈着な妻は、かなり対比的な夫婦だ。

 でもこれくらい真反対な性格だと、案外結婚生活もうまくいくのかもしれない。


「ええと、なにしに来たんだ?」


 いきなり現れた二人に、俺はそう尋ねる。

 するとビーガルはニカッと笑みを浮かべて言った。


「歓迎会でもしようかと思ってな! 今夜は大宴会だ!」

「……いいのか? わざわざ俺のために」

「良いってことよ! 別にアンタのためじゃなくて、アンタを理由に騒ぎたいだけだしな!」


 確かに何かと無理やり理由をつければ、酒を飲んだり騒いだりしても良いかなって気持ちになる。

 そこら辺は人族と変わらない感性をしているんだな。


「それじゃあお言葉に甘えて参加させてもらおうかな」

「おうよ! だがまあ、客人とはいえ、準備くらいは手伝ってもらうがな!」

「もちろんそれくらいはやるよ」


 俺はそう言いながら立ち上がる。

 ビーガル夫妻の後を追って家を出ると、村の中心にある広間まで来た。

 そこにはすでにかなりの数の村人が集まっており、わいわいと準備を始めていた。


「うははっ! 久々に騒げるってことを聞いて、みんな張り切ってるな!」

「久々なのか?」

「まあな! こんな辺鄙な土地にある村じゃ、日常に変化が起こることなんてほとんどないからな!」


 なるほど。

 はっちゃけられる理由がなかなか生まれないと。

 平和だから良いことなのか、はたまた退屈な生活と言うべきなのか。

 判断に困るところだ。

 結局のところ、どんな環境になっても人間は悩み始めるってことなのかもな。


 そして俺はキャンプファイヤーの骨組みを手伝ったり、食べ物や飲み物を運んだりと、忙しなく手伝う。


「そろそろ主役は休憩しときな!」


 見知らぬ魔族のお姉さんの調理のための食材を洗っていたら、彼女から突然そう言われた。


「いや、まだ大丈夫だぞ」

「別に気にすんなって! ビーガルに何か言われたらアタシがガツンと言い返してやるからさ!」

「ええと、そうじゃなくて、普通に手伝いたいんだよ」

「手伝いたいなんて変なヤツだな! でも別に大丈夫だからさ! ジンだって帰ってきて暇そうにしてるんだし!」


 そう言ってお姉さんが視線を送った先では、ジン君が手持ち無沙汰そうに岩に腰掛けて足をぷらぷらさせていた。

 そういうことか。


「……分かった。それじゃあお言葉に甘えるよ」

「ああ、ここはアタシに任せておけ!」


 お姉さんは力こぶを作って大丈夫アピールしてくる。

 俺はその場を離れると、ジン君のところに向かった。


「あ、アリゼさん! もう手伝いは良いんですか?」

「ああ、もう主役は手伝わなくて良いってさ」


 近づいてくる俺に気がつき、手伝いは良いのかと聞いてくるジン君に、俺は頷いてそう返した。

 それを聞き、ジン君は苦笑いを浮かべる。


「確かにそもそもお客さんを働かせるもんじゃないですしね」

「いや、それは全然構わないんだけどな」

「……僕も何か手伝えたりできたら良いんですけど。手伝っちゃ駄目って言われてるんですよね」


 ふとジン君は申し訳なさそうに目を伏せた。

 何かしらの罪悪感を感じているらしい。


「そりゃあ、どうして?」

「僕、心臓の病気を持ってるんです。激しい運動をすると、血を吐いて、最悪死んでしまう、みたいな」

「あー、なるほどなぁ。そりゃ確かに禁止するわ」


 ジン君の言葉に俺は納得したように頷いた。

 さしずめ、ジン君は自分の病気で周りに迷惑をかけていることに、負い目を感じているのだろう。


 ジン君はまだ子供なんだし、そこは大人に甘えても良いと思うけどな。

 まあ子供だからって悩まずに甘えてばかりだと、いざって時に独り立ちできなくて困ることもあるが。

 でも心臓の病気は自分だけでは流石にどうしようもないしな。


「う〜ん、的確なアドバイスかは分からないけど、手伝うことで恩返ししようとするんじゃなくて、激しい運動をしなくてもできるような恩返しを考えてみたらどうだ? 例えば楽器をやるとか、生活が豊かになるような研究をするとかさ」


 俺が言葉を選びながらそう言うと、ジン君は顎に手を当てて考え込んでしまった。


「激しい運動をしなくてもできる恩返し……。確かに僕は、畑仕事とか狩りとか、自分にできないことで恩を返すことばかり考えていました」


 それからしばらく彼は考えていたが、ようやく何か心に決めたのか、ゆっくりと顔を上げてこう言うのだった。


「ありがとうございます、アリゼさん。何か道が開けた気がします」

「そうか。何か少しでも力になれたのなら良かったよ」

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